紳助がおこなった漫才の練習は、竜介の人格を認めないようなものだったが、そのくらいハッキリと作りたい漫才が見えていたということでもある。
紳助は竜介と組むまでに2人の相方と組んで失敗しており、ガッツのあった竜介が紳竜の片方として人気者の座をつかんだ。人気者になってからは、顔の「かわいい」竜介に女性ファンが多くついていた。
たんにB&Bのアレンジではない。
紳竜の漫才のポイントは、反ハングリー精神とでもいうようなセンスだ。じっさい、紳助は1人っ子で、かなり甘やかされて育ったらしいが、それはおいておくとして。
洋七ですら家が貧乏だったという神話をまとっている。ビートたけしがいくら新しいスタイルを提示しようがその出自は浅草という古い世界だ。たけしは自分の芸を深めようと人知れずタップダンスを稽古したりする。いくら人前でちゃらんぽらんなことを言っていても、根の価値観がそうなのだ。
ところが、紳助は、
「踊りとかやらされたでー、吉本に言われてな。あんなアホくさい。なあ? おれらにはできへんっちゅうねん」
みたいなことを言う。で、歌のレッスンでの失敗談を話したりする。大げさに言えば、古い価値観(音楽の教師)と自分のズレをネタにしたものだ。
漫才のネタに関しては、観客へのサービスとして、わかりやすいものも入れる。
「不良なのに、ケンカが弱い」
「不良なのに、体が弱い」
といった展開がそうで、それがウケると、
「おっ、このネタ、まだ使えるな」
「もう、これ(ばっかり)、やめようや」
といった批評的つぶやきを入れる。
こういう楽屋オチは日本映画だと、森繁久彌が得意とした。直接の影響というよりは、もっと自然なマンガの欄外にマンガ家が自分の言葉を記す感覚に似たものだろう。
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