このマンガがわからない!とり・みき『遠くへいきたい』が話題に

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とり・みきが自作のマンガ『遠くへいきたい』をTwitterにアップしたことで生じた「このマンガが読めない」騒動。

均等割9コマでセリフ無し──という特殊なスタイルであることから、「読み方が分からない」「内容が分かりづらい」といった反応があり、それを作者本人がリツイートしたから、それに反発するファンの擁護だの、読めない派への支持表明だの、ゆうきまさみの感想だのが出て、賛否両論あふれることとなった。

これがツイートされたマンガ
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読めない人がいることは、いまにはじまったことではない。それより、読めなかった人たちの態度に時代性を感じた。

言ってみれば、「ユーザー・フレンドリーであることがデフォルトになっている時代」らしい反応だということだ。

おそらく、読み方や内容が「分かりづらい」と怒っている人たちは、たまたまTL上に流れてきたマンガに目をとめたところ、「パッと見てわからなかった」ことに腹を立てているのだと思う。

怒るまではいっていない人たちも、自分にフレンドリーでないと瞬時に判断したものを拒絶するだけで、わからないものをわかろうとはしていない。

したがって、こう読めばいいと教えていてる人たちの親切な行為は、ほとんど彼らに響いていないはずだ。

この表現は自分が不得手なものらしいから、理解する努力をすれば、感性が磨かれるかもしれない──といった発想は持ち合わせていないらしい。

人それぞれ、と言ってしまえば、それまでだが。

それが工業製品や接客、政治・行政の類であれば、ユーザー・フレンドリーであることに越したことはないが、マンガのような創作物に関しては(これもまた商品の一種とはいえ)、そこが第一義である必要はないと思う。

ボク自身は、ユーザー・フレンドリーであることが最優先事項であるような表現は、むしろ好まない。

火ダネとなったのは「まず1コマ目いらない」以下、ダメ出しをした方(@hayami_fayfay)のツイートだと思うが──

興味深いのは、「あと、7コマ目が4コマに本来必要な説明なのにオチに使いたいから保留するのも悪い。」というところ。

これ、解釈が甘いのでは、と思った。そういう指摘もあったらしく、追加でこのようにツイートしてる。

「あとコマ割りの解釈の差は少し面白かったな。
俺は転んで怪我してるのをみて動くと思ったが、

他の人は転びそうだから変身しに行ったって解釈は俺にはなかったわ。」

文章が少し混乱しているが、「転びそうだから変身しに行った」という「他の人」の解釈こそが描かれたマンガに対して最も妥当性の高いものじゃないかな。ボク自身は初見でもっと逸脱した読み方をしていて、つまり、読み方が一種類とはかぎらないという可能性への想像力が欠如している。

そういう自分の読みの甘さを「面白かった」ですませているところが、ボクにはおもしろかった。自己の無謬性が揺らがないので、ストレス少なめに生きていけそうで、うらやましい。

なお、さんざん突っ込まれた誤字(択一)に関しては、「素直に間違えました!!」と認めている。誤字じたいはだれにでもあることだ。が、他人には「分かりづらい」と言いながら、自己の文章に誤字や乱れがあることが他人にとっての「わかりづらさ」につながる点に関しては、無自覚っぽい。

作者自身(@videobird)は最初、上のツイートを「ありがとうございます。参考にいたします。」とコメント付きでリツイートしている。

また、その後の盛り上がりに対して、追加でいくつもツイートしているが、主だったものを引用しておく。

【引用】
個人的には読み方に難癖つけてくる方のご意見の方がマンガ文法を考える上で非常に興味深く参考になる。ただ均等割9コマとセリフ無しはスタート時の根本的なシバリですからそこは把握していただけるとありがたいです。このフォーマットで34年描いてます(他のマンガは普通に描いてます)

普通に……

【引用】
GQで連載していた4年前にも旧アカでときどきアップしていましたが読む方向に関してこれだけ話題になったことはなかったので時代の急激な変化を実感しました。気づかせてくれた幾つかのご意見に感謝致します。

【引用】
少しマジメに補足しますと、縦書きゆえにマンガを含む日本の雑誌の大部分は右開きで、このマンガも元は右開きの雑誌に載ったものなので文字があってもなくてもほとんどの読者は右→左に読んだと思います。それを横書き(左→右)のツイッターに載せたので初見の方には混乱が生じているのだと思います。

【引用】
マンガを公表してそれに賛否両論、面白い、面白くない等々の感想が付くのはごく健全で通常の消費のされ方だと思います(もちろん面白いといわれれば喜びます)。「古い」というのは90年代に描かれているので当然です。「わからない」はデビュー以来いわれ続けているので古さとはあまり関係ないかな。

【引用】
知ってて当然、読めて当然という批判はあまりよろしくないと思います。多くの人には無名だし「わかりづらい」というお便りは連載中からときどき届いてました。

【引用】
ていうか気楽にアップしてるんだからもっと気楽に読んでくれ。

 
P.S.(または蛇足)

もとになったマンガが『遠くへいきたい』の中では、比較的わかりやすいストーリーだったことが、かえって、この事態を引き起こしたような気がする。

とはいえ、シュール、ナンセンスの成分が多い内容ゆえ、自分なりに読んでみたところで、「この理解でいいのかどうか」という不安がつきまとう。そのことが「読む順番がわからない」という不満の形をとるのだと思う。

「読めない」と言われたとり・みきがマンガ文法ということにことさら意識的な作家である点が皮肉というか、当然というか……。

 
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