ウクライナ・ジョーク雑感(侵攻下のユーモア)

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社会が緊張の度を増すと、増えるものに、ジョークがある。たとえば、第二次大戦中はヒトラーとナチスに関するジョークがあふれ、のちに本にもまとまっている。
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2022年の世界史的出来事と言えば、ロシアによるウクライナ侵攻であり、そこでもまた、〈笑い〉が求められていることを日経新聞が報じている。

リアルタイムのジョークに感想を

この記事のよいところは、ウクライナの人々がロシア軍による侵攻にさらされている現状にあって、じっさいに交わし合っているジョークを具体的に採録していることだ。

参照元:
日経新聞 | ウクライナ、笑いが支える抵抗 「戦場の救いはユーモア」2022年10月1日 14:00(寄稿、キーウで 古川英治)

〈お笑い〉という差別語を用いてることは気になるが、事実上の戦時下であるにもかかわず、首都の劇場は連日盛況で、SNSやカフェ、戦場で笑いが絶えない様子を伝えている。

彼の地は、ロシアがウクライナ東・南部の占領地域の併合を強行し、戦争が長期化する厳しさ中にあるが、それに関する意見は、ここではさしひかえる。

あくまで、リアルタイムのジョークを(記事になった日本語訳で)読んだ感想をユーモア表現に興味ある者として記す。それ以外に他意はないことをご承知願いたい。

戦時ジョークのお手本

ウクライナの劇場は、スタンダップ・コミックのスタイルらしい。

「ロシアの戦車兵とジグソーパズルの違いは? バラバラになってもパズルはまた組み立てられる」

これなどはわかりやすいブラック・ユーモアで、戦時ジョークのお手本と呼びたいようなものだ。しかし、次の〈ジョーク〉はどうだろうか。

「けさは寝起きから調子悪かったんだけど、ウクライナ軍がロシア兵を何人殺したかを見て、元気出た」

ボクには、このジョークのおもしろさがわからない。

生の感情をぶつけただけのものだ。現地の緊張感の下なら成立するかもしれないが、安穏と暮らす傍観者には毒気が強すぎる。最初のジョークのような抽象化が欲しいところだ。

皮肉を込めたジョーク

 言葉遊び系のジョークでは、
「ロシアがまた綿花に見舞われたらしい」
 というのがある。「綿花」のアクセントを変えると「パンッという音」になる。

 これはウクライナの反攻を公に認めないロシア政府が「爆発」のかわりに使う用語。現地語はわからなくても、それをおちょくってやろうという精神はわかるし、好きだ。

 コロナ禍のせいで、音楽や演劇のオンライン公演は我が国でも定着したが、ウクライナでは、コメディアンたちが献金を募るショーを配信。200万人が視聴したらしい。

 ゼレンスキー大統領が元コメディアンだったことはいまではよく知られている。その〈後輩〉たちがジョークによって、銃後の人々の士気を高めているというわけだ。

戦場の負け惜しみジョーク

 では、前線の兵士たちの間で交わされるジョークはどんなものかというと、東部セベロドネツクで戦った司令官は激烈を極めた戦闘の様子をこんなふうに語ったという。

「かなりヤバイ状況だった。でも包囲された時は利点もある。360度どの方向にも撃てるだろ」

これも典型的な負け惜しみジョークだが、ロシア軍の激しい砲撃を受けながら、後方部隊に送った通信までこんな調子だったそうだ。

「建物をくれ。そうすれば、まだここに残って戦える」

 戦場の兵士たちは長時間寝ていない上、アドレナリンが出まくっているから、笑い出したら止まらないと司令官は言う。そして──
「どんなひどい状況もジョークに変えるのさ」

心の余裕を失うとユーモアも消える

 記事の中で紹介されてる、志願兵となったコメディアンの仲間の言葉が印象深い。
「あいつはきっと毎日、戦場で面白いネタを仕込んでいるに違いない」

 この言葉じたいにユーモアが含まれている。ボク自身はこうした心の余裕を失っていないだろうか? 異国の地の人々にも笑ってもらえるジョークを口にできるだろうか。

 ⇒『ヒトラー・ジョーク ―ジョークでつづる第三帝国史』

 
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