M-1 2015決勝戦をふり返る

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 5年ぶりにM-1が復活した。司会は今田耕司と育児休暇から復帰した上戸彩だ。5年のブランクがあったため、結成15年までOKとなった結果、大半を10年以上のコンビが占める結果になった。

◆審査員

 歴代M-1王者9組から、どちらか1人というラインナップ。はじめ聞いたときは、さっぱりしていていいと思った。が、現役世代の漫才師が審査するというのは、それなりの問題もあって。

 たとえば、番組中で行っていたが、NON STYLEと同期のコンビが複数出ているとか、笑い飯・哲夫の飲み友だちが出ているとか。ヒイキはしなくても、えんりょが出るなどしかねない。

 また、採点の平均ラインが高かった印象がある。1組目のメイプル超合金はウケてたとはいえ、つけられた点のうち、いちばん低い評価でも85点。ここは80点くらいからはじめておかないと、今回だけでなく、来年以降にも響く。いま審査員にすわっている連中の時代は、70点台とかあったからね。

 ちなみに、今回の最低点は、馬鹿よ貴方はとハライチがつけられていた83点。最高点はジャルジャルに徳井がつけた96点。まえは96点なんて、笑い飯以外ではものすごい高得点ってイメージだったに、わりにあっさり出るのねって感じ。

 全体として、審査がものすごい民主主義的に見えた。軸になる審査員がいない。紳助と松本が支配していた時代をキラっていた視聴者もいるだろうが、いいことなのかどうか。中田カウスみたいにダーティーな私生活が取り沙汰されるような審査員もいないし。

◆決勝戦

○メイプル超合金
 結成3年のダークホース。全身真っ赤な金髪男とデブの組み合わせ。金髪がボケというか、「コンビニ行くけど、なんかいる」「ここ、Wifi飛んでんな」などと縦横無尽にふるまう。
「区役所で働く友だちから、本当に聞いた作り話」

○馬鹿よ貴方は
 アゴひげをはやした○メガネのボケの独特のテンションが売りのコンビ。
「顔をひし形にしてやろうか」「何回言うんだよ」「3回だよ」「あと1回言うのかよ」
 岩尾評「最後の1分、ほぼ『大丈夫か』『大丈夫だよ』に費やしたのはすごい」

○スーパーマラドーナ
 ボケが1人2役で話を再現する。それにツッコミを入れたり、解説したりする。
「オレ、料理界の川越シェフって言われてんねんで」
「料理界の川越シェフは川越シェフや」

○和牛
 ドラマによくある「結婚式を抜け出して、本当に好きな人に会いに行く」という展開を「ぜんぜんステキやなと思わない」と言いつつやってみる。
「そういうとこやで。『どうしたらいいの』じゃなくて、どうしたいの」
 増田はこういう「ああ言えばこう言う」ネタが好きなんだと。

○ジャルジャル
 漫才じたいにたいした内容はなく、妙な口グセや「幼き頃」といった言いまわし、「雷坊主の添い寝節」などのヘンなことわざを交互に織り交ぜていくスタイル。
「お客さんのこと、『群衆』って言うな」

○銀シャリ
 出だしは今回、いちばんのお気に入り。
「ぼくねぇ、思うんですけどもね、最近の若い女子は簡単にキュンキュンきよるでしょ。壁ドンとかね」
「ベルリンのっ?!」
「ベルリンのやない。いや、それで東ドイツ西ドイツが崩壊したんちゃうねん、おまえ」
 これまで小じんまりまとまった感じで、優勝しそうなけはいがまったくなかったが、ベルリンの壁ドンが客にもウケたせいで、弾けた印象があった。そのあとの内容は「料理のさしすせそ」だけで、そのことを審査員のパンクブーブーにけなされてた。

○ハライチ
 ツッコミ澤部のこまったような表情とリアクションが売りのコンビで、TVでは澤部だけがひっぱりだこ。誘拐ネタといえば、ダウンタウンというのに、チャレンジして、でも、その上を行こうということでもなかった。
「最高のぜいたくをさせて、ふつうの生活にもどれなくしますよ」
「独特な罰」

○タイムマシーン3号
 器用なデブが売りのコンビ。ありとあらゆるものを太らせることができると宣言。「漫才」を「ぜんざい」など太りそうなものに言い換える。ようは語呂合わせなんだけどね。
「能力者がおまえだけだと思うなよ」
 とそれまでツッコんでいた方がヘルシーの使い手として、「サウナに長くいろ」「強制断食合宿4泊」と攻撃しはじめると、客席が盛り上がった。

○トレンディエンジェル
 敗者復活から。「俺を誰だと思っている。斎藤さんだぞ」といういつものパターン。

◆最終決戦

 出番は上位の者から選べる。

○銀シャリ
 隣家の騒音問題。となりのカベが「うすい」と言うべきところを「細い」と言うなど、ジャルジャルと似た印象があったので、損した。ベテランだから、ネタかえりゃよかったのに。最終審査で2票。

○トレンディエンジェル
 いつものパターン。下ネタの入るやつ。対戦相手が彼らの引き立て役みたいなコンビだったので、得をした。キャラ勝負のコンビがきてたら、混戦だったかもしれない。

○ジャルジャル
 クセや言葉のチョイスは変えているが、さっきのつづきにしか見えないネタ。M-1の最終決戦では不利なネタ選びで、1票しか入らなかった。

◆ふり返って

 トレンディエンジェルは、THE MANZAI 2014 準優勝で、すでに審査員の大半をしのぐ売れっ子である。結果的に、現状追認で、M-1を復活させる必要があったのか、とツッコまれるハメに。漫才の大会というより、お祭り騒ぎする年末特番か。

 80年代の漫才ブームのあと、次はアメリカ風のスタンダップ・コミックが流行るんじゃないかみたいなムードが少しだけあった。スタンダップ・コミック出身の芸人はユダヤ人や黒人が多く、差別されていることを逆手にとったネタが目立つ。そういう意味では、最近の日本の漫才はスタンダップ・コミック風である。
 
 
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