THE MANZAI 2011 はどこがくだらないか

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 おそらく、つまんないだろうと思っていたが、ここまでとは!

 テレビ朝日がNHKの紅白歌合戦に代わる(といっても放送日はちがうが)年末の国民的番組に育てあげた『M-1グランプリ』が昨年でおわり、その後釜をねらって(その視聴率をいただこうと)フジテレビがはじめたのが、往年の人気番組をタイトルを受け継いだ、
『THE MANZAI 2011 』
 である。
「いま日本で最もおもしろい漫才師を決定する!」
 というふれこみで、12月17日(土)午後7時~4時間強生放送された。

 M-1を改悪したようなトーナメント方式で、結果、パンクブーブーが優勝したが、事前の選出メンバーを見たときのイヤ~な予感が当たってしまった形だ。昨年のM-1ですら負けたやつが日本一おもしろいのか?

 これはパンクブーブーのせいではなくて、番組の作り方がダメなんである。

 M-1じたいが最後の3年はつけたりで、全10回でおわることは予測できた。限界が見えていたわけで、もし、フジテレビが引き継ぐというなら、そこをどうするかという検討からスタートするべきだろう。

 個人的には、やるなら、M-1の歴代王者10組をならべるぐらいじゃないとダメだと思っていた。

 事前に流れたプレス向けのコメントで、プロデューサーは、
「実力があるけど最近ネタをやらないコンビに、どう参加してもらうか」
 と語ったそうで、ブラックマヨネーズなどの名を挙げているが、けっきょく、出なかった。ブッキング力もなければ、知恵もない。
 このプロデューサーは、自分の番組が日本一と認定したパンクブーブーがブラックマヨネーズよりもおもしろいと言い切れるのか。

 今年のTV界を代表する番組は、それこそフジテレビの『ホンマでっか!?TV』で、司会の明石家さんまに次いで貢献度が高いのがブラックマヨネーズだろう。そのブラマヨが今年の顔として漫才を披露するなら、そら、見たいわな。

 平成版THE MANZAIの唯一のアイデアはM-1にあった結成10年以内という縛りをはずしたことだ。それなら、それにふさわしい形式を考えるべきだった。
 売れっ子コンビからすれば、ヒヨっ子といっしょに予選から戦わされるのはリスクが大きい。ウケなかったら恥ずかしいといった心配以前に、時間をとられるのがかなわない。それもたんなる予選じゃなくて、〈本選サーキット〉みたいなものもある。とりあえず、様子を見ようとするのがフツーだろう。

 最終的に、決勝に残ったコンビは、野球でいえば、2軍の選手か2軍落ちしそうな(してしまった)ベテランばかり。

 M-1の場合は、企画からかかわった島田紳助の漫才観の集大成だった。その特徴をひとことで言えば、
「ガチンコ(真剣勝負)」
 ということだ。だから、ネーミングじたいがK-1という格闘技の大会をもじっているわけで、その日のナンバーワンを決める、というねらいも番組の作りからしっかり伝わってくる。部分的には気になるところもあったが、芯はブレていない。

 特徴のひとつが審査員の人選である。おそらく、紳助自身が出演者だとして、こいつらにだったら、とやかく言われてもガマンできる、というようなメンツが選ばれていた。なかには、アレ? っというのもいて、そこが不満だったが、まあ、いろいろ事情もあるだろうし、あれですらマシだったのだ。
 平成版THE MANZAIはキャイ~ンの天野やさまぁ~ず大竹を連れてきた時点で、それ以上の芸人はまず出場しない。

 しかも、M-1のような採点方式ではなくて、記名投票にしたので、審査はお気楽なもんである。
「あいつ、あのネタにこんな点つけたの?」
 とセンスを疑われる危険がない。
 審査員でもないのに(本人がイヤがったので、〈最高顧問〉という肩書きだった)ビートたけしばかりを映していたのは、そういうことだろう。だったら、はじめから、審査員なんていらないのである。

 優勝賞品がフジテレビ新番組のレギュラーということだったが、なんか通常スタッフのまえでやらされる人選のためのネタ見せを公開で見せられているような感じだった。

 TBSの特番で、たけしが人選したと称するネタ番組があったが、あっちの方が出演者の質が高かった。

 あんなふうに、はじめからたけしに見てもらうという形をとればよかったのだ。紳助が引退していなくても。

 昭和の漫才ブームの立役者に見てもらうわけ。たけし、さんま、鶴瓶、タモリ、上沼恵美子あたりが審査席、委員長が必要なら伊東四朗。そのまえで、ダウンタウンやとんねるずが漫才をやる。それなら、いっしょに出たい漫才コンビはたくさんいるだろう。司会のナインティナインが言うように〈社運をかけた〉番組なら、それぐらいしろ。見えてくるのは、商売の思惑ばかり。M-1で失敗した視聴者投票をケータイでやったり……。

 最低でも、このぐらいはできるだろうという改善案を示しておく。
 爆笑問題やさまぁ~ずクラスのTVの人気者に漫才をやらせる2枠+スタッフが足を使い、劇場をまわるなどして集めた今年おもしろかった漫才ネタ10枠+トーナメントで勝ちあがってきた新人・中堅・ベテランにネタをやらせる3枠。彼らを並列で競わせ、各審査員におもしろかった1組へ投票してもらい、票数×4分のネタがもう1本できる。

 ブラマヨやチュートリアルの漫才はM-1という舞台だからこそ輝いた瞬間があった。スリムクラムだって、M-1の緊張感の中でこそ、あの〈間〉がスリリングだった。人気が出て余裕のできたTHE MANZAIのスリムクラムは、だからそれほどおもしろくなかった。

 どういう場なら、おもしろいネタが生まれるか知恵をしぼるのがプロデューサーや構成作家の仕事だ。あと、M-1の悪い面である漫才中に客席を映す演出もやめて欲しい。

 情けないのは、出演した漫才師たちも同様だ。なんのための生放送か。何度も練習したにちがいないコントめいたネタは予選のときだけでいい。漫才の本流は時事ネタだぞ。昭和のTHE MANZAIは、ネタのクオリティよりも若者の気持ちを代弁したことでブームになったのだ。TV向けに薄められたものだったにせよ、たけしや紳助の漫才には毒があった。
 なのに、格好のネタであるフクシマでの政府の対応や紳助引退をなぜ笑いにしない?

 作る側にも出る側にも紳助がいない──ということを実感させる風景が画面の中に広がっていた。
 
 
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