M-1 2008決勝戦をふり返る

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 決勝進出8組のうち、5組が初出場となった今大会を番組は「新時代の幕開け」と称した。それを見たボクの感想も、

(たしかにM-1は新時代に突入した)

 だった。事前に顔ぶれを知った段階で、ヤな予感がした。

(この鮮度のなさは、なんなんだ……)

 初出場の連中は今年1年、TVのゴールデンタイムに出まくっていたコンビばかりだ。ハッキリ言えば、司会もおなじ今田の『爆笑レッドカーペット』である。しかも、今回のアシスタントは『レッドカーペット』でなかなかの審査員ぶりをしていた上戸彩だ。

 これではM-1以前の漫才系の賞への逆もどりだ。下馬評がそのまま審査結果であるような賞、オール阪神・巨人が何回もおなじ賞を獲ってる類の賞のことだ。M-1が斬新だったのは、その日かぎりの真剣勝負感と番組から伝わってくるライヴ感があって、審査員のクオリティが高かったからだ。

 第4回がおわったときにいちど、M-1がつまらなくなるのではという不安を感じたが、ブラックマヨネーズ、チュートリアルという中堅どころの逆襲という形で盛り返し、徳井というスターを生んで、昨年は苦労人風のサンドウィッチマンが敗者復活から栄冠を手にするドラマで、ひとまず物語は完結した。

 このあとは、M-1の功労者である麒麟と笑い飯に優勝させて、第10回で幕を閉じるというのが、ボクの考えていたシナリオだ。

 ところが、今年、ラスト・イヤー(結成10年目)だった麒麟は決勝の舞台にしか残れなかった。彼らは昨年もダメで、結果として、川島の恋の噂と田村の『ホームレス中学生』のヒットがコンビとしての成功の足をひっぱった形となった。

 そして、笑い飯はこれまでの迷走状態から本来に近い形にもどして、とうぜん、最終決戦に残ると思われたのに、敗者復活で上がってきた、これまたレッドカーペット組のオードリーが高得点を叩き出したために、消え去った。たしかに、笑い飯は本調子ではなかった。しかし、下馬評の高かったナイツに点数で負けたのにすら驚いていてのに、オードリーが1位ってのは、なんなんだ。

 オードリーに対する採点における紳助と松本の採点の差(89点と95点)に、松本の好みと限界がよく出ているが、この程度の誤差はあった方が健全である。だからといって、1位はない。
「こんな漫才見たことないねー」
 と言った大竹まことはもともとクセが強くて、審査員としては信用できないが、紳助はさすがの切れ味を見せた。
「(西川)のりおさんのイヤな感じを思い出しました」
 今回の紳助の採点には首を傾げる部分もあったが、このコメントは日頃の不満をうまくすくいあげてくれた。

◆決勝戦

○ダイアン

 芸人仲間に同情的人気がある。松本も言っていたが、出だしがくどい。後半、やや盛り返したが、さらにもう一段クライマックスがないと、彼らのネタはM-1では勝ちにくいと思う。

○笑い飯

 入りの闘牛士の部分(セルフ・パロディ)はともかく、メインの追突事故の設定に目新しさがなく、Wボケ本来の笑いが積み上がっていく迫力にも欠けてた。

○モンスターエンジン

 「結成2年目」と称する中堅。彼らがTVで見せるワンパターン・ショートコント「暇をもてあます神々たちの遊び」はキライではないが、M-1のネタはありきたりでつまらない。

○ナイツ

 おなじみの「ヤホー」で調べた宮崎駿。このWけんじを変形させたような漫才の評価の高いのがわからん。後半、下ネタに入るあたりからムリやり笑わせ、そういう意味では、うまい。

○U字工事

 栃木なまりで、栃木ネタをする。ふだんの人気もわからないが、この決勝でも意外の高得点。大勢出るネタ番組の箸休めにはよくても、この表面的なネタを4分聞かされるのは、しんどい。

○ザ・パンチ

 毎年1組はいる、まちがって決勝に残ってしまったコンビ。レッドカーペットで見るぶんには、工夫したツッコミはありかもしれないが、キンチョーで空回り。ネタの内容は空っぽ。

○NON STYLE

 コンビ名に偽りありの、ありふれた漫才コントのスタイルで、川でおぼれている子供たすけるという、よくある設定。そのかぎりにおいては作り込んであるが、ボケの独白がうるさい。

○キングコング

 昨年は予想外の健闘で、でも、あれがピークだろうと思っていたら、案の定。特技のドタバタを封印して裏目。馬脚をあらわした。西野の表情は好きなんだけどね。直前SPでの涙もよかった。

○オードリー

 彼らのネタでは、タイムラグのある反応というのに好感をもってたのに、入ってなかったよな? テクノカットのフリをあとできかすところだけ、少しおもしろい。

◆最終決戦

○ナイツ

「まちがって覚えている情報を伝える」という形なのに、ボケがうっかり正しい方を言いかけるというミスをやって、一気にシラケた。そもそも、2度つづけて聞きたいネタじゃないな。

○NON STYLE

 残ったなかでは優勝だろうと思って、見ていたら、その通りになった。感想は1本目とおなじ。歴代の王者のように、画面に引き込むほどのパワーはなかった。

○オードリー

 ネタじたいがひどかったし、キンチョーのせいかコンビの息もいまひとつで、デキもサイテー。なのに、ナイツが0票で、彼らに2票。あえて言えば、コンビのバランスはいい。

◆結果

 敗者復活から2年連続で最終決戦に残るというのは、予選審査員のクオリティの低下と言っていい。

 各演者のファンには気に入らないところもあると思うが、正直に書いた。エラソーに言っているが、ボクは「審査員」に向かない。おもしろさ+αを求めるという偏りがある。

 あまり私情をはさむと、最初に述べたM-1のよさに反するのだが、これまでのM-1王者は文句なしだった。唯一、弱いのは第2回のますだおかだぐらいで、それでも、松竹に賞をやるという意義はあった。

 今回のNON STYLEは最終決戦の3組では順当だが、これまで笑い飯や麒麟がベストのネタのときに競り負けてきた密度を考えると、この程度で優勝なのか。なぜ、笑い飯より先にNON STYLEなのかという疑問が残る。

 ボクはNON STYLEかキンコンが獲ったら、おわりだと思っていた。

 ようするに、M-1は当初の役目をおえたのだ。世の中に「お笑い」があふれ、M-1自らが今回、レッドカーペットに負けた。新しい役目を見つけられず、次回もおなじ調子なら、紳助は10年でM-1を打ち切るか、審査委員長から身を引くんのではないだろうか。
 
 

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