◆総評
世間では注目されてるピン芸人5人のユニット〈ザ・プラン9〉の面々が本芸でそれぞれ出場し、たしか4人が準決勝進出したが、決勝に残らず。南海キャンディーズの男も準決勝敗退。かつて一世を風靡したぜんじろうなんて、準決勝にも残らなかった。
M-1のように、決勝に最終決戦がないのはものたりない。
しかし、下火の感があるブームは、けっきょく、マジックも含めたピン芸人に追い風を吹かせたと言われている。
こうやって、まとめて見ると、ピン芸にはひとつのポイントがあることがわかる。それは客席との関係である。いろいろな趣向、スタイルはすべて、この一点を処理するためのものと言っていい。
どういうことかわからなければ、いちど大勢のまえで漫談をやってみるといい。漫才であれば、いわゆるボケ・ツッコミという型がある上に、ネタを進めるのは相方に話せばいい。ところが、漫談は客席に向かってしゃべる。うまくウケれば、相づちの役割をはたすが、なければ悲惨もいいとこ。しかも、客は複数いるから、話しかけるといっても、だれに? てな具合。
近頃のピン芸人が絵や映像や音響を用意して、それにツッコむ形をとるのはそのため。でなければ、演劇チックなひとり芝居の世界になる。
綾小路きみまろなど、ボクは好きではないが、盗作だろうがなんだろうが、あれで笑いをとるのはかなりの腕で、相当の下積みを感じさせる。ジョークをならべる形式+MCというスタイルはそこでつちかったものだろう。けっきょく、80年代からみんなが憧れてたスタンダップ・コミックにいちばん近いのは、きみまろだったりする。アメリカのは、もっと歌やモノマネなどの芸が入るけど。
◆審査員
伊東四朗をもってきたのはエライというか、フジテレビさすがにツボをついてるというか、これだけでずいぶんハクがついた。
間寛平はオマケ。華がいるのでね。ピントはズレてない。
大竹まことがM-1と両方の審査をしているのはどうなのか。
ダンカンは好きじゃない。M-1でいうラサール石井の役どころをねらったのだろう。
月亭八方(やばい顔してるなー)はいつもの調子。ピン芸で落語家がいないわけにはいかないってことで、M-1での春風亭小朝の位置に見えるけど、じつは中田カウスだった。コメントは甘口だけど、演者として、たしかなジャッジができる。
というわけで、はじめ審査員を見たときには不安があったが、けっきょくのところ、当日のデキがキレイに順位になってた。
◆決勝戦
出演順に。最終審査の順位も合わせてどうぞ。
8位:長州小力
長州力のしぐさでラジオ体操。どうせやるなら、もうちょっとオタク度が高い方がかえって長州力を知らない客にも通じたかも。ウケていたのは、体操のまえのボヤキ。
4位:ネゴシックス
不在中に郵便物がたまったという設定で、いろんなヘンな封筒を出してきて(これがボケ)、それにツッコむというネタ。「台形」がウケてた。このスタイルって、客席を向いてしゃべれないってことなんじゃあ……。
3位:あべこうじ
関東弁のやや気持ち悪い(本人が言うには「うざい」)キャラだ。そのわりには、ウケてた。ネタはいちばんオーソドックスで、カップルの女がかわいこぶるようすや階段でつまずいたときのゴマ化し方など。スケッチの部分を大きな動きでやるので、見た目には漫談とはちがった印象を受ける。海辺ではしゃいでグルグルまわる彼女。
「すごい勢いだったら、埋まる可能性もあるもんね」
4位:友近
すでに市場で高い評価を受けており、第1回第2回と常に決勝戦敗退をくり返してきた実力ナンバーワンの女。事前の特集で、
「やりたいネタが最近やれてない、やりたいことはたくさんある」
と語ってた。決勝のネタは、ソーセージの試食販売する女が取材されて、自分のポリシーなどを語るもの。あまりウケない。やりたいことは、わかる。しかし、はたして笑芸と言えるかどうか。ネタ後のインタビューで、
「この人はすごいソーセージが好きなんでしょうね」
と話していた。別個の人格としてあるわけだ。ボクは友近を一般人のモノマネだと言ってきたが、外面を徹底的になぞることで、内面(わかりやすく言えば狂気みたいなもの)まで伝えてしまうという。以前見たクレーム電話をかける女はまだ笑いに着地させてたのに。どっちかっていうと、文学の領域。
6位:ヒロシ
優勝候補ナンバーワンというプレッシャーに負けたのだろう。アタマでかんだ。決勝ではいつもの「ヒロシです」を捨て、「どうすればモテますか」というのをやった。パターンはいっしょなんだが。伊東四朗になぜ「ヒロシです」をやらないんだと怒られてた。あえて区別すれば、「ヒロシです」がボヤキでどこかにあきらめがあるのに、「どうすればモテますか」は嘆き、叫びになっている。ずっと聞いていてリズムが心地よくなるのは、「ヒロシです」の方だ。
優勝:ほっしゃん
カウンターで酒を飲む水商売風の女が出てきた注文に文句をつける。ロールキャベツをたのんだのに、向こうがオールキャベツと聞きまちがえた。
「だったら、キャベツって言うわよ」
以下、これをとっかかりに、言葉は前後の流れから意味をとらないと、
「じゃあなに、ジンジャーエールは神社にガンバレって声援を送ってるの?」
てな理屈で、がんもどき、カリフラワー、目玉おやじ、いったんもめん、みんなの童謡、ルーマニア、クール宅急便、『手品入門 だれにでもすぐわかる』、京唄子、モト冬樹などをダジャレ風に解釈していく。
7位:中山功太
ネゴシックスと組んでM-1にも出場してた。居酒屋でよくある風景という定番ネタをDJ(録音テープ)がツッコむというパターンで、フツーなら、
「いるでしょ、突然夢とか語りだすやつ」
と漫談ネタになるをひとりコント風に見せる。個人的には、舞台に立っている人間以外の声を使うやつはキライ(効果音は別)だが、「チェケラ~」といって、舞台上の人間のセリフをくり返す手は文章で言う「註」なのね、と思った。
2位:井上マー
まえになんかで見たことあったけど、新星扱いで、異様にウケてた。たしかにパワーはあったけど、尾崎豊調の絶叫で、自分のさえなさをボヤキ、「自由を奪われ、しばりつけられた」モノたちの気持ちを代弁する。
おでんのコンブ巻 → おれだけが縛られるのはイヤなんだー
酢豚に入れられたパイナップル → ここはオレの居場所じゃない
ブラジャーに入れられたパッド → オレだってウソはつきたくないんだ
レンジでチンされたコンビニ弁当の漬物 → オレにぬくもりはいらない
二千円札 → だったら、なんでオレは生まれてきたんだ
などなど。
◆受賞式
元チュッパチャプス、苦節十数年のほっしゃんが勝った瞬間、倒れて泣き崩れた。他人の喜びに水をさすわけではないが、ホントに勝ったのは、ヨコで気味の悪い含み笑いを浮かべていた司会の雨上がり決死隊だろう。あるいは、この直後に入ったCMで顔がアップになっていた不出場の陣内智則だろう。
(初出:笑えるメールマガジン 121)
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