M-1 2003決勝戦をふり返る

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 M-1について、紳助が最近浸透してきたと実感を述べた2003年の第3回。
「『M-1行くねーん』ってフツーに会話で通じるもんな」

 では、審査員の紹介から──
 紳助曰く、「自分が新しい笑いを作ってきたから、新しい笑いを認めてくれる」島田洋七、中田カウス。
「おれと松本は、まあ、おらな、みんな納得せえへんやろということで」
 さらに「自分の基準をもっている」ラサール石井と大竹まこと。今回はウッチャンナンチャンの南原も「そう、うれしいことに。ウッチャンはなんか用事があるみたいやわ」

 司会は初の今田耕司。
「オープニングから、いままでぜんぜん笑いないねんけど」
 と、いきなり松本にダメ出しされ、あとなにもしゃべれなくなってた。
 アシスタントは紳助の指名と思われる小池栄子。頭がいいとされるが、緊張感から進行ボロボロ。
 西川きよしもいる。審査員としては役立たずで、司会のようなものに格下げになった。あいかわらず、ジャマなだけ。西川きよしを入れるのは紳助のバランス感覚だ。自分が〈笑い〉を代表するのはおこがましいだろうと権威づけのために入れてる。

 で、これといった前置きもなく、すぐネタのコーナーに突入。

○千鳥
 紳助の番組で前セツをやっていたという今回のノーマーク=ダークホース。はじめて見た。彼らはいまや日本一の大舞台となったあの場にトップバッターで出てきて、あのネタをやったということに尽きる。あまりの唐突さに、最初、エロネタだということすら、ピンとこなかった。大阪弁にもあきてきたところで、岡山弁は新鮮。

○麒麟
 第1回出場時のネタの方がぜんぜんよかった(第2回は決勝に残れず)。あのときは、吉本関係者も知らなかったというぐらいの存在。いまではBaseよしもとのエース格という。彼らはツッコミ担当であるゴボウこと田村のマヌケぶりが、いい声=川島の奇抜な発想とからむところが魅力だ。が、今回は田村がフツーに(というかヘタクソに)ツッコむだけで、ネタの小ささばかりが目立った。

○スピードワゴン
 大阪から東京=ホリプロへの移籍組。評価もそこそこあるみたいだが、印象がうすい。

○二丁拳銃
 下馬評高かった。印象はうすい。

○笑い飯
 クドカン・ファンである知り合いの女の子がすごく好きらしい。彼らと名前の思い出せないだれかが。あと、ケンドー・コバヤシも好きらしい。そいでまあ、ネタはいつものパターンの交互にボケるやつなんだが、
「昨年は発想のおもしろさだけやったのに、この1年で技術的に完成させてきた。感動した」
 と紳助が最高点とも言える99点をつけ、松本も高得点、南原はオリジナリティに感動。しかし、根本的にはシロウト芸だと思う。

○アメリカザリガニ
 じつは彼らのことだけちょっと席をはずしたので、見てない。少し悲しい話をすれば、今回死体が2組出たと思う。決勝に残れなかったハリガネロックと最終決戦に残れんかったアメリカザリガニだ。ハリガネロックは第1回の準優勝。昨年不発で、今年は出るだけでもエライなんてフォローされてたけど、来年への期待感はだれもない。同様に、アメリカザリガニも松竹の若手看板というこでしかなかったんだって、みんなにバレた。

○フットボールアワー
 大本命のプレッシャーを背負っての登場。今日の有馬記念のシンボリクリスエスのごとき横綱相撲。圧倒的な強さで、これまでさんざんTVで見せてきた結婚記者会見のネタをやっていた。もっとも、デキじたいは非常によく、いつもよりひとまわり大きく見えた。「ボケがドジョウすくいの面に似てて」
 と松本が笑ってた。ボケの顔としゃべり方がヘンという古典的なコンビだ。カウスはコンビのコントラストとネタ運びをホメてた。

○りあるキッズ
 小学校5年から漫才をやってキャリア7年の彼らがいよいよ高3大人としての参戦。メガネかけたボケは、表情の作り方から、いとしを意識している。
「その年令で、いとこいみたいな漫才をやってるギャップがおもろい」
 と洋七が感動してた。でも、それって、けっきょく、子供を売りにしてるってことじゃないのか、コンビ名からして。リスペクトの姿勢は評価するし、商売的にはうまいけど。

○アンタッチャブル
 敗者復活組。当日、外でやって、その結果を待って、スタジオに乗り込んでくる。59組の代表。マイクを向けられ、「自信ない」と言ったのが印象的。でも、じっさいには堂々たる勝負で、ファーストフードという凡庸な設定のコント。お釣りをわたすところで、いっしょにエビを出すというボケに松本が爆笑してた。突飛やったら、なんでもええんか?
「ツッコミが変わってて、もう1本見たい」
 とラサール石井が高得点。

◆最終決戦

○笑い飯
 優勝は笑い飯かな、と思った。笑い飯は78点のネタをやった。ボクの考えでは、80点が彼らの最高到達点で、これ以上は出せない。それはネタの性質上出せないものだ。M-1の平均点に合わせて言えば、ボクの80点は90点と思ってくれ。とにかく、1本目とほぼおなじ(やや落ち)のデキで、1本目の方が動きがおもしろい。2本目はアタマの『かわいそうなぞう』のフリが長いし、ウケたいところだった脱脂綿がウケず、終盤雑だった。

○アンタッチャブル
 敗者復活から最終3組に残ったのでなければ、ひょっとしてた。紳助が最後に、
「1票も入らなかったけど、すごくよかった」
 と言ったのは、お世辞でもフォローでもない。ネタじたいは、これも2本目はやや落ちるが安定していて、そのぶん、おもしろくない、かつ、コント的というのは、東の芸人にありがちなパターン。よく言えば、合格発表での友だちのホンネというドラマ的要素があって、ピントのズレた審査員なら好みそう。

○フットボールアワー
 びっくりするぐらいデキがよくなかった。キンチョーもあったかもしれないが、ネタのつくりじたいが彼らのバランスを活かしてない。〈SMタクシー〉という着想じたい首をかしげるものだし、ヘンな運転手が一方的にボケて、ただツッコむだけ。笑いの広げ方もワンパターンというわけで、彼らの限界を見た気がした。ホントにおもしろいネタは、4分間がもっと充実していて、ネタそのものが聞いてる側に大きく感じられるものだ。

◆結果
 審査員の席順で、紳助、松本、南原が笑い飯、残りの4人がフットボールアワーに入れて、キレイに分かれた。

 これで3年連続本命優勝である。もはや第1回のあのピリピリした感じはなくなっている。ますだの言うように、第1回で中川家が獲ったのはM-1にとって正解だった。が、第2回をますだおかだがもっていった時点で狂った。記名投票という紳助が採用したシステムが逆説的に出来レース化をもたらしている。
 個々の審査員が責任をとらないければならない記名投票ではヘタなやつを選べないんである。大げさに言えば、今後1年のお笑い界がかかっている。となると、接戦では本命有利となる。アンタッチャブルが敗者復活でなかったら、フットボールアワーの票は割れてたにちがいない。
 が、それを言うなら、昨年、フットボールアワーは最終決戦で勝ってたのに、本命のますだおかだにもっていかれた。だから、あげてもしかたないんだけどね。しかし、あの最後のネタが2003年の日本一のネタか?

◇未来
 紳助が言う「アンタッチャブルが来年の優勝候補」はべつにしても、東京勢がもっと伸びてくるのではないか。『直前スペシャル』で紳助は、「おぎやはぎが人力舎から出てきて、ひとつのカラーを作った」と言ってて、そのへんを拾う必要性があるからだ。
 だって、来年の最終3組はまた笑い飯とアンタッチャブルか? ってなるでしょ。笑い飯は決勝にだけ残ればいいやん。
 笑い飯や麒麟を変化球と言われる。ボクからすりゃカーブで、曲がり方はちがっても、しょせんヨコの変化だ。そろそろフォークが見たい。中川家は直球だけれども、剛速球だったから、おもしろかったわけでしょ。

◆2003年をふり返って
 夢路いとし死去という大悲報をのぞいて、あんまり笑いの記憶はないなー。
 まえも書いたかしらんが、だれのファンかと問われるなら、〈やすとも〉と答える。海原やすよ・ともこね。知り合いの女の子も、あの妹(=ツッコミ)の方の天然なとこがかわいいなーと言ってた。まあ、もともと女性コンビびいきなのであるが。

(初出:笑えるメールマガジン 112)
 
 
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