M-1 2004決勝戦をふり返る

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 年末のM-1(12月26日)でボクがもっとも気にしていたのは、審査員がどうなるかということだった。ご存じの暴力事件で、M-1の提唱者で審査委員長でもある紳助が謹慎。紳助不在のM-1はもはやM-1じゃなくなるのではという危機感があり、正直気乗り薄だった。
 ところが、結果は大成功。それは過去たった3回であれ、すでに歴史のあるM-1でパワーであった。紳助不在でもシステムがうまく機能し、むしろ、かえって公平感があったぐらいだ。紳助がいると、他の審査員が紳助のコメントに引きずられてしまうからだ。
 そして、意外であり、同時に納得したのは松本の不在である。いれば、紳助の肩代わり=評価軸にされていただろう。しかし、クセのある松本はその器ではない。松本辞退は本人にとっても番組にとってもプラスだった。もともと、紳助と松本がすわってるからこそ値打ちのあったM-1が2人がいなくても成立するすごさがわかるだろうか。
 司会はカンは悪いが安定感のある無色が売りの今田耕司で、去年M-1の司会も経験済みでこういうときは重宝する。
 では、席順に審査員を審査していく。

○西川きよし

 今回ほど、お飾りとしてのこの人の値打ちを感じたことはない。しゃべらなければ、もっといいのに。上方お笑い大賞のときも、いつものようにひどい司会ぶりだった。この人はズケズケものを言うフリをしたいのか、なにが言いたいのかわからんことをよく言う。冒頭で、
「去年はそっち(司会)にいたんですよ。これで、また紳助クンがもどってき
たら、そっちいくんでしょう」
 って、そら、そうやけどやな、おっさん。その現実に興味あるのはあんただけや。視聴者の気分としては、司会にはもどらず、プレゼンテーターとしてだけ出てきてくれっちゅう感じや。

○南原清隆

 ま、だれもこの人に笑いの判定をしてもらおうとは思ってないが、こういう人は公平感を出すのに必要である。審査員の顔ぶれを見たときに、ここのポジションにだれかいるよなっていうのはわかるわけで、漫才のグランプリなのに審査員の関西濃度を下げる紳助の手口には舌を巻く。

○大竹まこと

 んー、クロウト筋には評価の高い人ですけどね、この人は役者だろう。素でTVに出ていておもしろいと思ったことがない。うるさ型なイメージがあるけど、評価は甘い。絵ヅラ重視ですわってる感じか。

○島田洋七

 いやー、漫才のときのイメージからは想像できない鋭さで、この人のコメントがいちばん的確。しかも、常に同業者視点である。かつて紳助が洋七の笑いのパターンを盗んだときに、本人だけには気づかれたというのがうなずける。

○春風亭小朝

 なにかにつけて、普段若手の笑いを見ていることを強調するのはなんなんだろう。当然のことながら、対象は東京勢ばかり。笑いのポイントはそうズレてはないと思うけど。当日ガチンコ勝負が売りのM-1で、知っているコンビにだけ、
「いつももっとおもしろいのに」
 と言う。個人的にはいらない。

○ラサール石井

 この人はいなきゃしかたないと思うが――いちお実践もしていた評論家として――紳助がいないせいか、いつも以上に分析的なコメントが鼻についた。でも、台本の採点にしかなってなかったように思う。そのくせ、アンタッチャブルに笑ったりしてるから、ガックリきた。健全な証拠でもあるんだけど。

○中田カウス

 漫才してるときはいまだに好きになれないけど、洋七同様、一時代を築いた人というのは、やはり見る目がちがう。1回戦から見てたっていうしね。純粋の大阪漫才代表はこの人だけだが(西川きよしをべつにしすれば)、じつに正解な人選と思う。古い人らしく採点が高めなので甘く見えるがちがう。それでいて、個人的感情もうまく点数に入れ込んでいる。見事。

◆決勝戦

○千鳥

 昨年につづき、決勝戦のトップバッターだが、出順がやらせかと思うほど、ハマっている。岡山弁で、ヘンなテンションというわかりにくいネタながら、なぜか人気があって、深夜に一時冠番組ももってた。実力的には下位で妥当。

○タカアンドトシ

 結成10年目で念願の決勝進出。東京漫才の雰囲気だが、これが意外におもしろい。坊主頭がツッコミで、もう一方がボケてるのに、なぜか坊主頭がどつかれるという。そのパターンのくり返し。のいるこいるの漫才って、見てると腹立つけど、そのうちに笑ってしまう――あれと近い感じがある。見おわった直後はベスト3に入ってもいいと思った。あとで、トータルで見ると、やっぱり落選だが。

○東京ダイナマイト

 ビートたけしの評価が先行している。いかついデブがしゃべると気の弱そうなツッコミというギャップが少しだけおかしい。ネタはありきたりのタクシー漫才。

○トータルテンボス

 おわったあとで、印象のうすい組が毎年いる。今年は彼ら。絵ヅラが好きじゃない。南原が「新しいことをやろうとしてる姿勢に好感がもてた」みたいなコメントしてたけど、芸や笑いになってないと評価できない。

○南海キャンディーズ

 爆発、炸裂した。顔は知ってたけど、ちゃんとネタみたことなかった。不覚だった。M-1で発見したのがくやしい。不思議な顔の男女コンビ。大女のしずちゃんがおもろい。それを解説するやまちゃんが巧み。また、いい感じにウケたもんだから、しずちゃんが乗ってた。大収穫。来年のイチオシ。

○POISON GIRL BAND

 よかった。男2人組、ヘンなテンションの漫才。南海キャンディーズの強烈なキャラクターのあとに出てきただけに、やりにくかったはずなのに、笑いもとったし、得点も高かった。だいたい、この手のネタって、作るのがむずかしい。客が笑ってくれるかどうかわからないから、つい逃げたくなるのに。
 今年のM-1に興味がうすかったのは、笑い飯が獲るのかどうかぐらいしかポイントがなかったからだが、南海キャンディーズや彼らが出てきたことで、今後の楽しみができた。ちょっと弱さもあるけど、ボクの評価では2位。

○笑い飯

 紹介のアナウンスで、「M-1の申し子」とコールされたがまさにそうで、彼らや麒麟が登場したことがM-1の凄みにつながった。前回のM-1がおわった時点で、関西の女の子たちは「次は笑い飯」と言っていた。ところが、まさかの決勝戦敗退。最終決戦に残れなかった。
 優勝候補の重圧に負けた。ラサールが指摘したように「ネタを2本やっちゃってるから」という構成も負けられないからだろうし、決戦に残って当然のつもりで、いい方のネタをあとに残した戦略ミス。南海キャンディーズの意外な躍進に足もとをすくわれた形になった。彼らとて、ノーマークからの決勝進出でわかせたコンビだけに文句は言えない。
 登場時からの高得点や人気に反発して、ボクはずっと彼らへの評価が渋かったが、こうなってみると、獲らせてあげたかったって気になる。TVのバラエティーなんかでお約束のボケ合戦をちゃんと笑えるネタにまで作り上げる彼らの力量はなみなみのもんではない。それに、いつも出だしは醒めて見てるんだが、どっかで笑わされてしまうからな。だからといって、来年が笑い飯だと、なんか順番待ちの出来レースみたいでそれもちょっとな。

○アンタッチャブル

 10年選手というより『笑いの金メダル』等いまのTV界のインチキブームの主力という自信でもって、横綱相撲を展開した。審査員が「客席とのライヴ感がいちばんあった」と言ったのはまさにそうで、見せ方がぜんぜんちがうし、要所要所できっちり笑いをとっていた。ネタそのものは、たいしておもしろくないんだけど、実演がすばらしい。

○麒麟

 今年は敗者復活から上がってきた。りあるキッズや安田大サーカス(TV露出による過大評価)といった強豪を差し置いての進出。やっぱり、M-1の顔である。
 さらに、タカアンドトシと笑い飯が同点3位で、その場のルールで、審査員単位で見たときに票の多く入っているタカアンドトシ(2勝1敗4分)を3位にするっという説明を今田がたどたどしくしてたのに、一気に3位で。
 カウスが「2つくらい(大阪で)賞もうて、去年までかなと思とったら、今年もうひとつガンバったから」と言っていたのが印象的。

◆最終決戦

○アンタッチャブル

 前回のエンディングで、来年の予想を訊かれた紳助の、
「笑い飯じゃちょっとな。アンタッチャブルってことにしとこう」
 って言霊が残ってたことになる。6票獲得して第4回M-1グランプリに輝いた。たしかに、あの時点の笑い飯はそうだったし、だからって、アンタッチャブルもなって感じだった。で、1年後、全国区の強みをまざまざと見せつけた(会場が東京だったのも彼らにとってはよかった)。
 1つ目よりネタは落ちるのだが、「スキージャンプのようになってるじゃないかよ」といった大きな動きができるのが強みで、ダレたところが一気に吹っ飛ぶ。デブとヤセという絵ヅラの強みを感じた。
 「昔は牛も殺せないような……」「牛は殺せねえよ」というのはちょっと好き。あと、子に反抗される親という(コントの)状況をモー娘の節で歌うところがあるのだが、せっかくひっぱってきた笑いがあそこで、しばらく止まる。これはよっぽど自信がないとできない。そのオチでドカンとウケて、すごくメリハリがつくわけだ。

○麒麟

 彼らはいつもM-1決勝に出て欲しいけど、基本がアナウンス・ネタという枠を超えなければ、グランプリというのは、ちょっとしんどい。あの形を崩さずに確実に笑いを作ってくるのも、たいしたもんではあるけど。

○南海キャンディーズ

 残念。中田カウスの1票のみ。ここにきて、ネタの冒頭でアシスタントの井上和香をイジった大胆さはホメていいのかどうか。このネタで、通常の南海キャンディーズのネタのレベルがだいたい想像ついた。これが1本目だったら、あそこまでボクは感激してないと思う。たんに、互いのルックスをいじるだけでネタのつくりが小さくなってる。ワケのわからない広がりにかける。こっちが1本目のネタだったら、文句なし勝ちであった(だたし、勝ち上がれていない可能性もあるが)。
 2人の微妙なテンションのからみが命だけに、出来不出来が大きいと見ていい。安定感がつけば、コワいもんなしだが、引き替えにシロウトっぽいどこへ行くかわからない不安感(それが魅力のひとつ)が失われる危険性がある。
 かつて、小づえ・みどりが長い不遇のあと、突然おもしろくなって、やがて再マンネリ化して死んでいった二の舞にならなければいいが。それでなくても男女コンビの寿命は短いし。シロウトっぽさを残しながら、腕をあげた先例に笑い飯がいるので、ぜひ見習って欲しい。ヘタにヴァラエティなんかに出て他のやつらにいじられないことを願う。

◆2004年をふり返って

 歴代のチャンピオンでは昨年のフットボールアワーしか残ってない感じがある、TV的には。中川家は漫才してくれた方がいいので、その方がいいんだけど。
 ますだ・おかだは多少出てるけど、全国区進出って印象はうすい。『笑いの金メダル』や波田陽区なんて別次元の流行りモンに押されてるせいだろう。でも、じつはブームと関係なさげに勢力を伸ばしてるのがオセロで、相乗効果で鶴瓶も目立ってる。

 関西では、祝日なんかの特番で漫才番組をよくやってる。十数組がネタをやるだけのものだが、ちょっとたいくつ。今回決勝に残った人たち+歴代チャンピオンみたいな組み合わせなら、満足度高いんだけどなあ。
 もちろん、やすよ・ともこには出てもらわなきゃこまるけど。あと、まあ、東京勢は1組ヒロシにさしかえてもらって、残りはそのつど旬の人たちに出てもらうとして、息抜きのピン芸人で友近か劇団ひとりが出てってあたりが、個人的には好みかなあ。
 もうオール阪神・巨人や中田カウス・ボタンがトリをとる番組はいらんやろう。もし、1組だけ古い人間トリをとらすとしたら、B&Bかな。

(初出:笑えるメールマガジン 119)
 
 
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