でも、たけし本人にはアナクロに向かう必然性もあって、浅草出身のコメディアンって過去がある。長い下積みの汚れをひきずっていた。
そんなたけしのスケールを大きくさせたのが、新宿系文化人の大御所・大島渚監督による映画『戦場のメリークリスマス』への起用だ。これで、たけしはマジメで本格的な役者もやれることを示して、のちの犯罪者役や映画監督・北野武への伏線をはった。
ちなみに、たけしが後年語っているところによると、犯罪者役を立てつづけにやったのは、『戦メリ』でたけしの登場シーンに笑う客がいたからだという。映画の役じたいはシリアスなものだが、客は芸人だと見て笑ったのだ。そのイメージを払しょくさせるねらいがあった。
たけしは、大学をドロップ・アウトしている。加えて、東京の田舎に育ったことからくる悪ガキ・イメージ。犯罪者役。ある種の人々がビートたけしに求めているのは、芸人というよりロックンローラーの資質である。
もうひとつの期待は文化人的資質で、映画監督として〈世界のキタノ〉と呼ばれるまでに成功した。観客動員の少なそうな(一般には、芸術的と誤解されやすい)映画を作っている。中心テーマは暴力――もう語りやすい語りやすい。
さらに期待があるとすれば、視聴率王としての面で、萩本欽一失速後、80年代後半のTV界で、各局に看板番組をもっていた。
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