80年代以降の笑いの世界では、この人がキングということになってる。
漫才ブームの象徴的な部分をひっぱったという役割、若い世代にあたえた影響力、視聴率の実績、その後の風格からして、当然と言うしかない。
しかし、人間の器はともかく、本来の芸風は王様というより、古典的な道化だ。王様の悪口を許された唯一の者という意味での道化だ。
売り出しのころのキャッチ・フレーズに、
「コマネチ!」
というのがあった。イヤミの「シェー」やこまわり君の「死刑」のように、ポーズ一体型の決まり文句で、ガニ股風にひざを開いて曲げ、両手の動きでいわゆるビキニラインを強調する。コマネチは一世を風靡した女子体操選手だ。小学生たちは、そこにドリフみたいなノリを見出して飛びついたが、さしておもしろいもんではない。
ようするに、批評なのね。スポーツだなんだと騒いでも、けっきょく、男性週刊誌が見ているのは、そこだろっていう。
フツーの芸人とちがうのは、笑いのキングになって以降も、なにかというと、「コマネチ!」とやっている姿勢だ。大物になると、この手の流行語的キャッチフレーズは、乞われなければならないものだ。
たけしの評価もおもしろさも、つまるところ、すべて批評であり、姿勢なのだ。
ビートきよしとコンビを組んでいたツービート時代(つまり、漫才ブームのころ)の伝説的なギャグに、
「赤信号みんなで渡れば怖くない」
というのがある。
交通標語のパロディで、こんなことわざがあると誤解した人がいたぐらいの完成度だ。じっさいには、ことわざとは向きが逆で、川柳に近い。日常でよく見かける情景であると同時に大衆状況への風刺にもなってる。高い芸術性だ。
けど、おもしろいか?
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