寅さん映画の配収ベスト5とシリーズが長期化した理由

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 以前書いた『男はつらいよ』の記事に加筆したら、どういう偶然か週刊文春で、シリーズの配給収入ベスト5を紹介していた。

 注目点は2つ。
 ・5作中4作が90年代に集中している
 ・配給収入が15億前後で安定している

 4半世紀にわたるシリーズなので、単純に配収を比較して人気度がわかるわけではない。入場料がちがうからだ。ま、それはそれとして、順位を見てみると──

 以前の記事で、観客動員数が増えた例として紹介した『花も嵐も寅次郎』が15.5億で2位である。あとは年代順で紹介しよう。

 第44作 1991年 寅次郎の告白  14.2億
 第45作 1992年 寅次郎の青春  14.5億
 第46作 1993年 寅次郎の縁談  15.7億
 第47作 1994年 拝啓車寅次郎様 15.5億

 右肩上がりになっている。てっきり下降線をたどっていると思っていたのに。渥美清が死ぬまで松竹がシリーズをやめんはずだわ。

 配収が安定しているのは、寅さんを見て正月を迎えるという層が最後まで存在したってことだ。客単価を1500円とすれば、ざっと100万人である。そのかわり、新しい観客を獲得したってこともなさそうだ。

 ちなみに、90年代前半というのは、日本映画が最も低迷していたころである。日本人の大半が文化より金もうけに狂っていたバブル経済がはじけ、震災とサリンで第2の敗戦と言われた95年にシリーズはおわった。

 渥美清演じる寅次郎の姿に、当時の大人は心にまだ残っていた〈なつかしい日本〉の姿を重ねていた。甘えがひどく、ハタ迷惑な存在だけど、愉快な男……親戚の中にひとりはいたような。作品ごとに出てくるロケ先の田舎風景もそうだ。大半の観客にとって、それは無縁の土地であるからこそ、かえって、自分の知っている昔の風景を重ねた。どちらも自分の身のまわりでは、とっくに殺伐とした現実にとってかわられていたのに。
 
 
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