ホンモノの大阪のおばちゃんを田中裕子が演じる

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 TVなどでしょっちゅう語られる、あるいは、映し出される、いわゆる〈大阪のおばちゃん〉は、アニメのキャラクターみたいなものだ。商店街などでマイクを向けられると、シロウトのおばちゃんでも、期待通り、あるいは、それ以上の〈大阪のおばちゃん〉ぶりを発揮してくれるが、あれは演じているのである。シロウトでさえ、そういうサーヴィス精神をもっているところが大阪という土地柄なんだということもできるが。

 映画『大阪物語』で、実生活でも夫婦である沢田研二と夫婦役を演じた田中裕子は大阪弁をしゃべる。この人は大阪出身なのだが、ホンモノのおそろしいくらいのドスのきいた大阪弁だ。他人を寄せつけない大人の女性の姿がクールだ。それが昔は夫婦漫才をやっていたという設定なのだからね。過去の舞台のシーンがときおりインサートされるが、それは古い吉本や松竹新喜劇に通じるような作り物のおどけた顔をしている。

 出身は鳥取だが、京都に長く住んでいた沢田研二はインタビューなどでは関西弁をしゃべる。藤山直美と舞台の喜劇をやるなど、笑いもいけるので、『大阪物語』の夫婦漫才のシーンは脚本的にもったいない。ちゃんとした漫才の台本にしても、この2人なら、客を笑わせることができただろうに。おれなら、沢田研二に人生幸朗をやらせて、沢田研二の歌をボヤかせるけどね。かけあいのおもしろさは他のシーンで見せることにして。

 沢田研二は映画の中で、トシとった男の雰囲気がよく出た表情を見せる。とても元アイドルとは思えない。それとも、ジュリーと呼ばれたような人だからこそ出せる味なのか。この夫婦を主役に起用したコメディがなぜ作られんのかね? 藤山直美も映画では、笑いの方の代表作はないはずだし(それはお父っつぁんもいっしょなのだが)。

 監督: 市川準、脚本: 犬童一心、主演: 池脇千鶴。

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