朝ドラ『まれ』は田中裕子の演技に注目

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 NHKの連続テレビ小説(通称・朝ドラ)の2015年4月期『まれ』は、3月に開通した北陸新幹線にあてこんで、石川県能登地方を舞台にはじまる。

 行き場のなくなったヒロインに部屋を提供したのがもともと民宿を営んでいた桶作文。部屋代はちゃんととるんだけどね。この文さんを演じる田中裕子がさすが。リアルな田舎のおばちゃん(ヒロインから見れば、おばあちゃんぐらいだが)を演じている。

 よくある〈田舎の人=人情味にあふれている〉みたいなパターンではないのよ。最初は無愛想で、部屋を貸すのも拒んでいたのに、けっきょくは貸してくれる……ところぐらいまでは、まあ、パターンのひとつだけど。

 ヒロインの恋のゆくえを賭けの対象にしたり、その進展がもどかしいので、いきなりインタビューして本人にないしょのまま村中に放送したり、といった形で、奥に秘めた不良性がコミカルな行動に出る。

 田中裕子も「おもしろい」と言っている篠﨑絵里子の脚本の貢献もあるだろうけど、ドラマや映画は、脚本の力で演技力がなくても成立するタイプと、演技力がないと脚本が活きてこないタイプに分かれる。

 ことあるごとに部屋代を請求するドライな文の人柄は、ヘタすると、都会からきた人間を食い物にする田舎者みたいな感じになってしまうところだ。田中裕子がやると、文自身が一種のギャグとして言ってるのがわかる。

 田中裕子はもちろん美人なのだが、田舎にはときどき、こういうちょっとお茶目な、
(昔は美人だったんだろーなー)
 と思わせる人がいる。『あまちゃん』も最初は小泉今日子がよかったしね。

 突拍子もない言動をとるときも無愛想な表情を崩さないあたり、田中裕子はいわばハードボイルドなコメディ演技で、『麗しのサブリナ』のハンフリー・ボガートみたいな役どころだ。じつな〈まれ〉な見物である。
 
 
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