ファンタジー小説(長編)の書き方。『怖いもの知らずのルリジサ』を実例に著者インタビュー形式で実践的に語る。
インタビュアー:RJラボ(──で表記)
答える著者:花見優作(1字下げで表記)
※前回の内容 ⇒ 作品の全体像からおうかがいします
そうやな、ざっくり言うと。でも、最初、この『怖いもの知らずのルリジサ』を書こうと思ったときに、まず、頭にあったんは〈おとぎ話〉やねんな。おとぎ話を小説化したようなものを書きたいって想いがとっかかりの部分やな。
おとぎ話とファンタジー小説はちがうものですか。
きちんとした区別は専門家に任せるけど、〈説話〉という言い方があるわな、おとぎ話の場合。
「昔むかし、あるところに……」
という出だしに代表される語り継がれてきた話や。昔話ってゆーたりもするけど、この〈昔〉ってのは、いまのこととはちゃうよ、だから、いろいろ不思議なことも起こるよというような意味が含まれてるらしい。
──『怖いもの知らずのルリジサ』が〈昔、ある小さな村に……〉ではじまるのは、あえてやってるわけですね。
そう。『グリム童話』なんかは、何度も書き直されるうちに、よけいな手が加えられて、文学の要素が強まっていったわけやけど。根本の発想は説話を文字で記録していくということやな。
『怖いもの知らずのルリジサ』に元ネタはあるんですか。
ない。けど、ヒントになってる話が『グリム童話』の中にある。それは4番目に収録されてる「こわがることをおぼえるために旅にでかけた男」(※)って話。とゆーても、今回、このインタビューを受けるにあたって、いちおう確認しただけで、タイトルも知らんかったし、意識的に再話したとかじゃないねん。
※註:初版では、「ボーリングとトランプ遊び」という題だった。ちなみに、グリム兄弟の『童話集』初版第1巻は、1812年のクリスマスに出版された。
──原作ではないということですね。お好きな話だったんですか。
ぜんぜん。むしろ、「しょーもな」って思ってた。この話はちっちゃいころにTVのアニメで見たはずやねん。ほんで、そのときも、たぶん、期待はずれやって、それで逆に記憶に残ってたんちゃうかな。大人になって、いっぺん、グリム童話(たしか、初版)にざーっと目を通したことがあってんけど、そのとき、あのアニメってこの話やったんかみたいな。
──グリムの方は、お化けの出る城で三晩、番をすれば王女と結婚できる設定なっていますね。
〈3日〉という設定だけは、あえてグリムを踏襲したな。領地を半分もらえるっていうのは、おとぎ話って、なんかそんなん多いやんって感じ。
──明確な元ネタがなく、テイストがおとぎ話風ということで言えば、アンデルセンの創作童話に近いですかね。
てか、〈童話〉を書いたつもりはないから。それに、童話の世界では、長編とゆーても、「人魚姫」あたりで50枚くらいやったんちゃうかな。おれの場合は、ファンタジー小説ってことでいいと思う。
ターゲットを教えてください。
10代から20代のマンガやアニメの好きな男女かな。これを読んでくれたときに、登場人物のイラストを自分なりに描いてくれる子がおったら、うれしいな、と思いながら書いてた部分はある。
──それで、服装のくわしい描写があったりするんですか。
そこは世界観の再現やな。この作品って、元ネタはないけど、元ネタがあるようなフリをした文体をあえて採用してんねんな。その架空の元ネタはおそらく中世ヨーロッパの話やねん。けど、服装に関しては、現代の中世風ファンタジーに寄せてある。
──中世ヨーロッパ風ファンタジーというのは、ゲームでいうと、ドラクエ(『ドラゴンクエスト』)に代表されるような?
大ざっぱに言うとな。あと、レイヤー(コスプレイヤー)なんかが好きそうなアニメとか。
──女性はとくに、セクシーさが強調されていて、露出もありますもんね。現実の中世ではまずないような。
そやねんけど、ターゲットの話にもどすと、じつは、いつものおれの読者よりは若めの層にも読んでもらいたい、という気持ちが強いねん。ゆーとくけど、あれやで、海のワカメやないで。
──わかってますよ。そういうダジャレは若い層にキラわれるんじゃないですか。
んなことないよ。おれの詩なんて、ダジャレばっかりやで。せやのに、14才の子が「曲をつけました」なんて手紙くれんねんから。
──『怖いもの知らずのルリジサ』に関しては、花見優作には珍しく、作品のベースに流れているモラルが健全だという気はします。そういう意味では、10代前半の人たちにも読んで欲しいですね。
(……つづく)