井上陽水「少年時代」は藤子不二雄の戦争体験がきっかけ

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 長い時間をかけてミリオンセラーとなったこの曲。91年、CMに使われてヒットし、リバイバルのように言われていたので、古い曲なのかと思っていたら、90年に映画『少年時代』の主題歌として作られたのだった。

 映画には、同名の原作マンガがあり、さらにもとになった小説(柏原兵三『長い道』)がある。原作マンガの作者が映画のプロデューサーに初挑戦した藤子不二雄(A)だ。友人の井上陽水に主題歌を依頼した。

 はじめ陽水は、
「安孫子さんが詞を書くなら、曲を書く」
 と条件を出した。そこで、藤子(本名が安孫子)は詞を作ったが、曲がなかなかできてこない。もう限界、というギリギリで仕上がってきた「少年時代」には、藤子の詞はいっさい使われてなかったという。

 それが井上陽水の代表曲のひとつになったわけだが、当時は宣伝する時間がなく、チャート・アクションも目立たなかった。

 映画の興行成績も悪かった。しかし、こちらは数々の賞を獲った。戦時中の疎開が題材になっていたからだ。もとになった小説に心を動かされた藤子が自らの疎開体験、イジメられたことなどをマンガにした。1978~79年に1年の約束で『週刊少年マガジン』に連載。自分から企画を出した藤子はあまりの反響のなさに途中打ち切りを申し出たほどだった。これが最終回が掲載されたとたん、「泣いた」といった感想が殺到した。

 それを10年以上たってから映画化した背景には、相方である藤子・F・不二雄とのコンビ解消があった。

 好きなことができるようになり、もともと映画監督志望だった藤子が好きだった『乾いた花』の篠田正浩監督に話をもちかけ、脚本を山田太一依頼。疎開体験者が中心となって映画製作が進められた。このとき、講談社は金を出さなかったので、藤子は関係の深い小学館に出資をたのんでいる。
 
 
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●井上陽水「少年時代」
 作詞:井上陽水/作曲:井上陽水・平井夏美
 (1990年9月発売)
 
 
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