『どこいこ』のすごさがわかる名言「油こすやつ」

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 雑誌『ジゼル』の好きなTV番組アンケートで、『やすとものどこいこ!?』が関西の1位に選ばれたらしい。その影響力からすれば、とうぜん。

 まあ、もうだいぶまえから、パワーダウンしてるが、パワーダウンというと、印象が悪いな、巡航速度と言おう。長寿番組へ向けての安定感をもちはじめたということだ。初期のころのみたいに、
「いっぺん見てみ、おもろいから」
 と、オススメできるほど衝撃的なことを毎週やってるわけではないが、日曜日の午後、ちょいとチャンネルを合わせれば、微笑ましい姉妹の姿が現れる。

 この番組の魅力は、彼女たちが素で買い物しているように見えるということだろう。商品や店を紹介しているわけではない。
「これ、メッチャええで」
 とゲストにすすめつつ、自分たちが買っているという説得力が売り上げに貢献するのだろうが、より深く分析すれば、会話のレベルが日常性を保っているところが、信頼感を生んでいる。

 油こすやつが欲しいと言って、
「油こすやつありますかぁ?」
 と店員に訊いている。

 油こすやつである。

 キミがすでに使っていれば、油こすやつになんの違和感もないかもしれないが、通常の情報番組で、油こすやつはありえない。その油こすやつというのは、なんなのか? それがあると、どう便利なのか? どういう種類があるのか? といったようなことが、TVの世界で言う情報だからだ。

 『どこいこ』では、その日のゲストにすすめたいと思って、姉妹のどちらかが、よさを伝えてくれないかぎり、なにもわからない。せいぜい商品名と値段ぐらいである。映像から伝わってくるのは、やすよが油こすやつを買っているということだけだ。

 ただ、それが生活雑貨の店で、油こすやつと言ってるから、知ってる人間は、
(ああ。あれね)
 とわかる。あるいは、
(そういうもんがあったらいいなと思っていたけど、やっぱりあるんだ)
 と感想をもつ視聴者もいるかもしれない。

 それで、あとで、あるいは、TVを見ながら、ネットで検索をかけると、さすがに、油こすやつという商品名ではなくて、
「油こし器」
 とか、
「オイルポット」
 といった名称で出てくる。

 ついでに解説しておくと、油こし器ないしオイルポットには、茶こし状の網目の部分と油をためる缶の部分がセットになっただけの単純なタイプと、科学的な処理をするフィルターがつくタイプに分かれ、値段は数倍ちがう。

 ──なんて調べているうちに、つい欲しくなり、Amazonでポチッたり、スーパー行ったついでに手に取ったりという人たちが大勢いるのだろう。

 この番組が関西ローカルである強みは、こうした説明がなく、
「油こすやつ」
 として数秒で片づける言語感覚だ。字面的には、全国区で理解できるかもしれないが、あれを油こすやつと表現するTVの出演者は東京にはいない。やすともの漫才では、東京と大阪のちがいが出てくるが、大阪人の言葉がおもしろいのは、イントネーションや語尾の問題ではなく、言語感覚が独特だからだ。

 この番組のヒットの余波ではじまった平日昼の帯番組『なにしよ!?』が『どこいこ』ほどおもしろくないのは、主演者が増え、味がうすまっていると同時に、構成作家の存在が感じられるフツーの番組になっているからだ。そこでは、お気に入りのものを「紹介」するコーナーで「説明」してしまっている。これが通用するのは『どこいこ』の成功で、やすともにブランド力がついたからだ。

 というわけで、

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