奥村チヨ「恋狂い」

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 ○作詞:なかにし礼
 ○作曲:鈴木邦彦
 ○編曲:鈴木邦彦、川口真

 1970年2月発売(21万枚/年間50位)
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 奥村チヨという人のヴォーカルは相当に気持ち悪い。この歌よりあとに生まれた世代が聴くと、かなりショックを受ける。いちお、セクシー歌謡ってことになっているが、これはセクシーというようなものなのだろうか。なんかもっと別次元のおそろしいものだ。
 これはおなじ作家チームによる69年の「恋の奴隷」「恋泥棒」につづく〈恋3部作〉の完結編。

 ♪もうこれ以上 じらすのは止めて

 と歌う。〈じれったい、じれったい〉は中森明菜の先取りか。巻き舌はのちのロックシンガーもびっくりである。この人と森進一だけは、もっとフツーに歌えんのか、と単純に思ってしまう。

 ♪私あなたに恋狂い 恋狂い

 と歌詞の方も狂ってしまっている。歌謡曲の詞にいちいちイチャモンをつけるなと思う人もいるかもしれないが、そんなあなたは奥村チヨを知らないんだろう。
 これは〈I need you〉の過剰表現ではなくて、ホントに狂ってるとしか思えない。
 そのへんをハッキリさせるために、1作目の「恋の奴隷」の歌詞を見てみよう。女性にありがちな、恋にのめり込む状況を「恋の奴隷」なんて言ってると思ったら、大まちがいだぞ。

 ♪あなたと逢った その日から
  恋の奴隷になりました
  あなたの膝にからみつく
  子犬のように
  だからいつも そばにおいてね
  邪魔しないから
  悪い時は どうぞぶってね
  あなた好みの あなた好みの
  女になりたい

 完全に、性奴隷やろ。「恋の奴隷」やなくて、「奴隷の恋」やろ。〈子犬のように〉でも、じゅうぶんそう思ったけど、〈どうぞぶってね〉でダメ押し。〈あなた好み〉って、そーゆう意味じゃないと思うけどな、フツーは。
 60年代を通しておこなわれたサド裁判がこの年の上告審で結審した──澁澤龍彦の有罪が確定した──ことと関係あるのだろうか。異議申し立てというより、たんなるノリにしか思えんが。これがオリコン2位とは。
 あいだにはさまれた「恋泥棒」の

 ♪最初は好きだと思わなかった~

 がずいぶんほのぼの感じられる。〈一度だけくちづけを許してみたけど〉ぐらいじゃ、もはやショックは受けんデスヨ。

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