森山加代子「白い蝶のサンバ」

Pocket

 ○作詞:阿久悠
 ○作曲:井上かつお
 ○編曲:川口真

 1970年1月発売(47万枚/年間15位)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 世間に作詞家=阿久悠を知らしめた1曲。それが70年の初頭に登場したというのは、象徴的だ。日本の新しいポップ・ミュージックというのは、阿久悠(作曲家なら筒美京平)とはっぴいえんどにはじまるのだ。
 この歌はやっぱり、出だしの、

 ♪あなたに抱かれて わたしは蝶になる

 ってところがポイントで、〈あなたに抱かれて〉の8文字が4つの音に乗ってる。10年後に、佐野元春がロックの歌詞で定着させたようなことをすでにやっている。
 日本語と英語のちがいは情報量だというのはよく言われることで、英語の歌では1つの音に1つの単語(音節)が乗せられるのに、日本語は1つの文字しかのせられないというのは常識だった。60年代の訳詞ポップスの時代に、漣健児あたりが英語(カタカナ)については、英語の歌と同様に処理するということをやっているが、日本語のパートはそうではなかった。
 「白い蝶のサンバ」は単語感覚を導入するというより早口言葉に近い。倍速、というおもしろさだ。しかも、このあとはフツーになるので、よけい印象に残る。曲先で、詞をつけるときに阿久悠の発明した。フォークルの「帰ってきた酔っぱらい」はエフェクトを用いたヘンな声という機械の遊びだった。や阿久悠はレコーディング技術じゃなく、譜割という人力のみでユニークな効果をあげてみせた。
 この歌はGS崩れである森山加代子のカムバック作でもあった。
 阿久悠その人の作詞家デビューは、ザ・スパイダースのデビュー曲「フリフリ」(65・5)のB面。はじめてA面に採用されたはモップスの「朝まで待てない」(67・11)。
 まだプロの作詞家といてやっていくつもりはなく、コピーライター兼放送作家のようなことをしていた。
 このあたりの事情は和田誠と対談した『A面B面』にくわしい。
 それまで特殊なものだった歌謡曲の詞を、阿久悠が自分でも書けるかもしれないと思ったのは、永六輔の作詞による「黒い花びら」(59)を聴いたときだったという(作曲:中村八大/歌手:水原弘)。普通の言葉でも成立するもんなんだって。のちのラップがストリート感覚を売りにしたように、身近な言葉に人は親近感をもつ。

 ♪恋は心も いのちもしばり

 というあたりは古い歌謡曲をひきずっていて、本人も気に入ってないらしい。ホントはもっと抽象的な、ピーター・マックスの絵のごときサイケデリックの世界をやりたかったという。〈白〉だ〈蝶〉だってのはボクの趣味じゃないけど、象徴派ってことかね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください