放送作家・阿木由紀夫(のちの小説家・野坂昭如)が手がけた「おもちゃのチャチャチャ」は技術面で作詞のお手本と言っていい。補作詞として吉岡治がクレジットされているし、歌の場合は作曲家もかかわってくるから、阿木由紀夫1人の手柄ではないかもしれぬが、言葉づかいの見事さを具体的に指摘しておこう。
♪そらにきらきら おほしさま
みんなすやすや ねむるころ
おもちゃははこを とびだして
おどるおもちゃの チャッチャッチャ
まず、ストーリーの起承転結がきっちり整っている。短い文字数で、不思議な楽しい世界を歌にしている。
簡単な言葉に見えるが、ゼロから作って、このならびを作るのは相当すごい。絵本風の言葉に直せば、こんな感じだろう。
「そらにはきらきらとおほしさまがひかっています。みんながすやすやとねむっているころです。はこをとびだしたおもちゃがチャチャチャをおどります」
〈きらきら〉〈すやすや〉は形容詞としては珍しくない。しかし、歌詞を書こうってときに、このノリをよくする言葉を使おうと思うかどうか。
子供が歌うときは〈チャチャチャ〉をリズムかかけ声ぐらいに思っているだろうが、これはダンス音楽のチャチャチャ(またはチャチャ。マンボから発展したもの)だ。
ちなみに、この歌もともとは、ヴァラエティ番組『ヤマハ・タイム』(59)のコントの合い間に使うのととして、三木鶏郎が企画したもの。これが童謡として定着したのは、NHK『うたのえほん』で「今月の歌」に取り上げられてから。歌詞も現在の形になり、曲もチャチャチャとは縁遠くなってしまった。
日本の歌は短歌の伝統によって七五調が基本である。1番の歌詞においては一字のズレもない。念のために行っておくと、文字数を数えるとき、「ゃ」は数えない。「ッ」は数える。
歌詞の表記上では、「おどるおもちゃのチャチャチャ」になっているようだが、歌うときはだれでも「チャッチャッチャ」と歌っているはずだ。そのことは、サビの部分によくあらわれている。
♪おもちゃのチャチャチャ
おもちゃのチャチャチャ
チャチャチャ おもちゃの
チャッチャッチャ
「チャ」と「チャッ」の使い分けがなされている。2番以降、
♪なまりのへいたい トテチテタ
♪フランスにんぎょう すてきでしょう
など字あまりの箇所があるのが残念。
阿木由紀夫は野坂昭如になってから『火垂るの墓』『アメリカひじき』で直木賞を獲る。戦争や西洋文化の匂いがかすかにするという点で、作家性もふくまれている。
●「おもちゃのチャチャチャ」
作詞:野坂昭如(補作詞:吉岡治)/作曲:越部信義
【関連記事】
野坂昭如「マリリン・モンロー・ノーリターン」は「黒の舟唄」とカップリング