爆笑問題が首相の辞意表明について語った文章

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 爆笑問題の才能を知るのに、これだけはオススメってものがある。『爆笑問題の日本原論』って本だ。小むずかしげなタイトルはシャレで、政治や芸能のニュースをズラして笑いに変えるというもの。もとは雑誌『宝島30』に連載されていた文章(1994年04月~1996年06月)を1冊にまとめたものだ。1997年02月に単行本として発売、1999年04月に文庫化された。

 世間的に、爆笑問題は時事漫才と思われている。その後の彼らを見ていると、それでもいいと思うが、初期においてはもう少しアメリカナイズされた笑いを目指していたはずである。
 いちおう記しておくと、舞台での爆笑問題は下手の田中裕二が話題(ネタ)をふり、上手の太田光がボケるというパターンをとる。ボケといっても、古い上方漫才のように、ボケ=アホではなく、批評性が含まれている。
 『爆笑問題の日本原論』も表面上は時事漫才風に見せかけているが、読んでいけば、そういうものとは少しちがうぞ、と感じてくるはずだ。

 この本全体のツカミとも言える冒頭部分はこうはじまる。

田中──しかし、驚きましたねえ。スタートから八ヵ月、佐川急便からの一億円の借り入れ問題による混乱に対する責任をとって、
細川首相、突然の辞意表明ですよ……。
太田──えっ、オナニーしてたんですか?
田中──それは”自慰”でしょ。そんなこと表明してどうすんだよ。
太田──しかし、もし本当にそっちの”自慰”表明だったら、面白かったろうねえ。わざわざ記者会見までして「私は、今でも時々、自慰行為をしています」なんて、発表しちゃったりして……。
田中──気が狂ったエロおやじだよ……。
太田──永田町はパニックだろうね。
田中──当たり前だよ。

 野暮を承知で解説していく。〈辞意〉を〈自慰〉と読み替えるのは、そこだけ切り取ればダジャレだが、ダジャレだから、おもしろいわけではない。下ネタだから、おもしろいわけでもない。一国の首相の、それも辞意という最大級のニュースを自慰という非常に個人的かつ下世話な領域にまで引きずり下ろすところがおもいろいわけだ。

 このネタは「それは”自慰”でしょ」でひとつ成立していて、次の「もし本当に」以下は、笑いのわかってる客(読者)なら自分で想像してケラケラ笑うところだ。けれども、そこは一般向けに説明してあげている。ならば、どう表現するかにセンスが出るわけで、そこを太田は「私は、今でも時々、自慰行為をしています」とした。これは、いいトシをした大人は自慰行為なんてしない、ということが世間のタテマエだけど、ホントはしてる(人もいる)でしょ、という暴露なわけだ。

 この無軌道ぶり(言ってはいけないことを言うところ)が太田が敬愛するビートたけしから受け継いだ最良のスピリットであろう。