TV大好きな――感覚的には、お茶の間代表みたいな――ボクの友人が、これをすごい好きだった。ボクなんかより、ずっと好きだったと思う。
通称・チーズ蒸しパンの歌。CMソングってことなんだけど、タイトルはちょっと覚えにくいか。でも、内容はよくあらわしていて、おなじ学校の憧れのオードリーペプバーン似の女の子が泥棒される、他の男に(心を)もってかれるという、せつない失恋の歌。
これで、有頂天はお茶の間でもブレイク! となるかというと、そんなことはなくって、この曲を収録したアルバム『でっかち』を最後に有頂天は解散してしまう。あとで、ライヴ・アルバムなんかは出るけど。そういや、その最後のライヴのやけに感傷的なレポートが『PLUM』という雑誌(つづり合ってるっけ?)に載ってたなあ。ステージに上がっていこうとして、取り押さえられた客の気持ちがわかるとか、ケラが最後にずいぶん長いことおじぎしていたとか。この雑誌もバンド・バブル崩壊後、しばらくして廃刊した。
ケラは、けっきょく、メジャーに行っても、インディーズであることを一部のファンや業界関係者によって期待されつづけていたわけだけど、ケラのやりたい方向性が有頂天という枠では収まりきらなくなってきていたことは、カップリングの「アローン・アゲイン」が収録されたまえのアルバム『カラフルメリイが降った街』ぐらいから明らかだった。
音楽面でも、次のユニット=LONG VACATION につながるものになっている。
劇団もしばらくして、健康を解散し、(当初はプロデュース・ユニットと称していた)ナイロン100℃を旗揚げすることになる。
古い話に、将来有望と期待された若きコメディアン=渥美清が、あるタイミングで、自分のモダンな部分の芸風を切り捨てて、寅さんとして世間に定着していったというのがある。ケラも30才をまえにして、そろそろ、自分の落ちつき先をさがしはじめていたんだと思う。このまま、これ、つづけとっても、しゃあないやろうというような。
昨年のナゴム閉社にあたって、ケラは自主制作業界が資本の流入によって、インディーズというこぎれいな、しかし、方法論としてはメジャーとかわんないようなもんになってしまったことを理由にあげていた。自主制作の精神というのは、メジャーに対するアンチであるので、そっちがグチャグチャになってしまうと、よりどころがなくなってしまう。そういうツッパリは疲れたってことだろう。
「グレゴリー・ペックはだれだ? ハンフリー・ボガートは?」
って歌詞を注釈なしに理解できるファンだけを相手にするのは疲れたんだ。