NHKの朝ドラ『まれ』はヒロインがパティシエを目指して奮闘する。そのヒロインが押しかけで弟子入りする「巨匠」を演じるのが小日向文世(こひなた・ふみよ)だ。
はじめの方の回でチラッと出たときには、ただの「気むずかしいシェフ」ぐらいに見えたのだが、ちがった。ヒロインが夢を追う決意を固め、舞台が横浜の彼の店に移ってからが彼の本領発揮だ。
パティシエは昔だったら、「ケーキ職人」などと言われた職業だが、職人あるいは親父と言えば、「ガンコ」というのが昔のドラマの定番だった。
それがもうドラマの世界では、めっきり見なくなった。なぜなら、現実世界では、ほぼ絶滅したから。「ガンコ親父」や「こだわりの職人」なんてのは、ラーメン屋あたりのブログで、店長が自分をキャラづけしようと、プロフィール欄に書いているぐらいだ。
昔のドラマなら、主人公が夢を追いかけようとするのをガンコ親父が反対するというのがパターンだった。それが『まれ』では、大泉洋演じる父親の方が夢を追って家族をほったらかし、ヒロインに苦労をかけるというのがシリーズ前半のストーリーだった。
それがいまになって、ガンコな師匠を出してきたのじゃ、時代にも、ドラマの世界観にも合わない。しかし、朝ドラはヒロインの成長物語だから、師匠がものわかりよくっちゃドラマが作れない。
なにか、「ガンコ」にかわる現代の視聴者にも納得できるキャラクターが必要だ。ただのイヤな人間じゃ、コミカルな作品と合わなくなってしまう。たとえば、スタッフの先輩女性が最初イジワルな感じなのに、あとで協力的になるのは、はじめに出てきた瞬間から予測できるが、それでいいんである。
では、小日向文世演じる新しい職人像はというと、「変人」だった。これが役者としての彼がもつ「味」によく合っている。
P.S.
昭和のホームドラマで、ガンコ親父の代表と言えば、これ。
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