『負けない力』を読んで知性があると言われたい

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 橋本治の非フィクションには、哲学者的側面が見られる系譜がある。『負けない力』はその方面の最新作だ。といって、むずかしいことを書いてあるわけではない。〈知性がある〉と〈勉強が出来る〉はちがうって話だ。

 いまの世の中は〈勉強が出来る〉が優勢で〈知性〉は負けている。昔ながらの〈教養〉は流行らなくなったけど、教養主義的な考え方は世の中にはびこっていて、それがいろいろな問題を生んでいる。

 というようなことを明治以来の日本の歴史をたどり直すことによって明らかにする。おわりの方では、〈イスラム国〉や〈どこかの国の総理大臣〉にまで話が及ぶ。〈行き詰まった〉ように見える、いまの社会で生きていくのに、目を通しておいた方がいい1冊だ。

 一部分だけを取り出せば、とくに目新しくもないことも書かれている。たとえば、日本という国が過去に何度も〈鎖国〉して、独自の文化を成熟させてきた、とかね。

 それを橋本治のロジックの中で聞くと、いろいろと腑に落ちる。専門用語を多用する愚かさは、まともな文章の書ける人間なら、だれだってわかっていることだが、過去にさんざん戒められてきたのに、いまだに愚かな文章があとをたたない理由がわかる。

 橋本治自身はむずかしい言葉を使わない。ただ、独特の言い回しがあるので、なれてない人は「はじめに」がいちばん読みにくいかもしれない。飛ばしてもさしつかえない。

 いまの時代は〈情報〉が〈教養〉にとってかわっているという説はなるほどである。こっちもつい、紹介文などで〈役立つ情報〉なんて使ってしまうが、反省せねばなるまい。アクセク情報収集に励むのはやめようっと。
 
 
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