田中眞紀子が久米宏と「早口党」結成?!閣議決定のインチキぶりを暴露

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『久米宏ラジオなんですけど』が2020年06月をもって終了──というのもニュースなんだけど、間際となった06月13日の放送に、元政治家の田中眞紀子(田中真紀子)がゲスト出演した。

トークの破壊力がすさまじい。久米宏がキャスター、インタビュアーとして手練れであることに加えて、早稲田大学演劇部でいっしょだったという仲で、眞紀子節がはじけた。

久米宏もはじめこそ、珍しく原稿を用意してきた田中眞紀子の、いつもとちがう感じをつつくなど、さぐりを入れていたが、エンジンがかかると、会話の密度のすごいこと。

電通に持続化給付金をやらせたのは、オリンピック延期で電通の儲けがなくなった穴埋めだと、久米宏が持論をさしはさむなどして、田中眞紀子をヒートアップさせる。

どうしたって、話の矛先は現政権批判に向くが、田中眞紀子の舌鋒は健在。1月の定年延長問題をふられると、そもそも、閣議決定がどれだけ空疎なものかと実態を暴露した。

「(サインするのに)いまのなんですかって訊いても、知らねぇよ。早く回せ回せって」
「花押なんて、自分の顔描くんですかってバカもいるんだからね」

自身の政治的主張としては、ひとつに経済面の地方重視があり、財源にデジタル課税や防衛費の削減を挙げる。ここまでは、論としては、まっとうなぶん、目新しくはない。

ただ、アメリカの言いなりで戦闘機を買うことがいかにムダづかいかという裏づけの話がすごい。女性初の外務大臣として訪米したさいに、大統領の言質を引き出している。

田中眞紀子は外見や言動の印象から、ガサツなおばさんみたいに思われがちだが、アメリカに留学経験があり、英語で直接やりとりができる。

このときは「普天間」の問題だけはなんとか切り出さねばと使命感に燃えていた。で、「普天間~、普天間~」と言ってたら、パウエルも「普天間~、普天間~」とノリがいい。

ついには、当時のブッシュ(子)大統領も「普天間~、普天間~」と言い出し、あとで、外務省の高官に、よけいなことを言うなと怒られたという。怒るのは、やましい証拠。

田中眞紀子と外務省の確執を知らない人は各自調べて欲しい。なにかで読んだ話だと、歴代の大臣で外務省の役人が本気でビビったのは、田中眞紀子だけだったという。

この日のラジオでも、役人に書類を隠されまくった話をしていた。A級戦犯の岸がなぜ出られたのか、アメリカとどんな密約をして首相になったのか訊いて回ったってんだから。

戦闘機の件は、どの程度の防衛能力が具体例を出して訊いたら、そんなことできるわけないだろうとブッシュがお腹をかかえて笑っていたそうだ。

それが現政権が閣議決定を根拠に115機だかの追加購入を決めた戦闘機の話。こういうこと言うと、政権支持者は目くじらを立てて、いろいろ、がなりたてるのだろう。

ボクがここで言いたいのは、政策うんぬんの是非ではない。田中眞紀子の言うことは、話半分ぐらいで聞いとかなきゃダメだが、それにしたって、痛快で話術がすごいってこと。

終盤、「あと、2分、どんどん早口になりますよ」「いまページめくりましたね。まだあるの」「あと、1分半ある」と時間読みしながら、主張を述べていくあたりは圧巻。

いまの政治家は原稿を読むかカンペがないとしゃべらない人間がほとんどだが、原稿をもってきてて、こんだけ自在に、くだらないことも交えて話せるのがすごい。

自分で自分を美人ってことにする、それを押し通して、チャンスがあれば、必ずそれをさしはさむ──なんて芸人のやることだからね。いい意味で政治漫談なんだと思う。

逆に、田中眞紀子が目ざわりな人たちって、「スピード感をもってとかタレ目の知事が言ってますけれども」の〈タレ目〉なんかがいちいちシャクにさわるんだろうね。

3度入閣を経験し、役人に知り合いもいるから、彼らが「ヤル気をなくしている」という生の声も伝える。「指針を示し、責任をとるのが政治家」だと正論を吐く。

さすが田中角栄の娘と思わせるのは、肝がすわっていることだ。ただ、本質はお嬢様で、じゃじゃ馬なんだよね。現役時代はその人間的な弱点のせいで、足もとをすくわれた。

この文章に、田中眞紀子の人間性を擁護する意図はまったくない。政治信条を支持するわけでもない。そうしたものと、話芸の巧拙はまったくべつの話だ。

角栄の場合は、政治的な巨悪だから、利害関係者が大勢いて、ボスを守ろうとする人たちがいる。田中眞紀子は選挙時の人気取りにだけ利用され、あとは煙たがられる。

田中眞紀子に、政治としてそれはどうかという振る舞いが多かったのは事実だが、いまなんて、「どうか」じゃなくて、完全にアウトなやつらが中央で偉そうにしてるんだから。

タテマエであっても、政治は世の中を変えられる、国民を幸福にするといって、人々の関心が高いトピックスを勉強する姿勢を見せる田中眞紀子は自己アピールがうまい。

本を出すって言ってたから、政治的な主張はそっちで読めるだろうけど、ボクが考えるに、この人のマニフェストは「言いたいことを言う」だと思うな。

それがこの国にいま、いちばん欠けてることじゃないか。田中眞紀子がもういちど表舞台に出ることで、「言いたいことを言う」後継者がたくさん出ればいいのに。

元来、田中眞紀子(保守寄り)と久米宏(リベラル寄り)では、政治的立場がちがうはず。そんな2人が冗談を言い合って、ある部分では一致する。これが民主主義の姿だろう。

久米宏がもういちど政治家をやれば、とふると、「2人でやろうか。『早口党』」とすかさず返せる76才の達者さよ。それより年下の連中がふがいなさすぎる。