少女時代の原節子がその美貌で観客を驚かせたのがあの山中貞雄監督の数少ない作品の1本『河内山宗俊』(36年)だ。
山中監督は若くして、その才能を驚かれながら、わずかな作品を残しただけで戦死してしまった。原節子は女性として最も輝く年令が戦争中にあたり、まともな作品に出られてない。まったく、戦争なんてロクなもんじゃない。山本嘉次郎監督の『ハワイ・マレー沖海戦』にふれられることが多いようだが、山本薩夫監督『熱風』の評価が高い。
戦後すぐの『わが青春に悔なし』は黒澤明監督作品ということで言及されることが多い。没落令嬢を演じた吉村公三郎監督の『安城家の舞踏会』も名作とされている。
が、なんといっても、おすすめは木下惠介監督『お嬢さん乾杯』(49年)だ。日本でも古き良きハリウッドのようなロマンティック・コメディが作れることを示した。なのに、その後、日本でこのジャンルは発展せず、いまだにマイ・フェイヴァリットのひとつだ。
同年の今井正監督『青い山脈』もよく話題になる。その後は、小津安二郎監督での印象が強い。最初の『晩春』も同年に公開されている。小津作品では、いちばん若く、いちばん美しい。
ベストは『麦秋』(51年)だ。とてもユーモラスな演技をする。ついでに言うと、杉村春子のリアクションも絶品。小津安二郎的な日本映画が苦手な人も楽しめるはず。日本映画史上の最高傑作とも言われる作品だ。
このあとの『東京物語』が語られる機会が多く、代表作扱いされているが、作品的には前2作より少し劣る。それよりも、成瀬巳喜男監督のリアリズムの中で疲れた主婦を演じる『めし』の方が見物だ。
突然の引退表明で、最後の作品となった稲垣浩監督の『忠臣蔵 花の巻・雪の巻』のときには、まだ42才だった。
もともと、日本人離れした顔立ちだと言われた原節子──
の3本は、洋画派の映画ファンが見ても、損はないはず。
最初に見るなら、佐野周二が笑わせてくれる、これ。
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