山下達郎がAI美空ひばりを批判:「冒瀆です」の真意は?

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山下達郎がおなじみのサンソン(『サンデー・ソングブック』)で、リスナーの投稿に応える形で、AI美空ひばりについて、

「ひとことで申し上げると、冒瀆です」

とコメントした。ネットニュースの類は、客観報道のフリでこの件を報じているが、ボクは「山下達郎に賛成」で1票投じておこう。

山下達郎が発言に至った経緯

簡単に解説すると、昨年末の紅白で、NHKがAI技術で再現したAI美空ひばりなるものを登場させ、新曲と称する「あれから」(作詞:秋元康/作曲:佐藤嘉風)を歌わせた。

反対派の人は、ここできちんと批判しておかないと、この先、とんでもないことになる。

NHKはEテレなんかでAI特集をやってたりするが、そのせいもあってか、前のめりになりすぎてる。マッド・サイエンティストを批判する番組をやってたようにも思うが、おなじ轍を踏んでいる。

AI美空ひばりはなにが問題なのか

今回の問題点をひとつだけ指摘しておくと、AI美空ひばりに美空ひばりの意志はまったく入ってないということだ。「時代が進歩したら、私を復活させてね」なんて遺言はなかったはず。本人がこんな歌を歌いたかったか、紅白に出たかったかなんて、まったくわからない。

かつて、美空ひばりに「川の流れのように」を提供した秋元康の詞だからいいだろうなんてことにはならない。ヤクザと深い縁のあった美空ひばりは、いまみたいにコンプライアンスにうるさい時代にはTVに出たくないと思っているかもしれない。

遺族や関係者の了解を得ていたとしても、それは権利関係の話でしかない。ヘタすりゃ、NHKは「AI美空ひばりは、美空ひばりではなく、NHKだ」と言い出しかねない。技術力はそっちにあるから。でも、それを使って、美空ひばりとしての影響を人々にあたえようとするわけだ。「感動した」という視聴者がいれば、それはNHKの利益(広い意味での)となる。

べつの芸能人でも、自分だったら、ぜったいイヤだという趣旨の発言をしている人がいるが、おなじような意味だと思う。

あれ、AIっぽさを残すために、じっさいにできるよりもレベルを落としてるよねって意見もあったが、少なくとも、映像で見たかぎりでは、表情が死んでる。

『山下達郎サンデー・ソングブック』のファンとして

山下達郎がラジオを録音でやっているのは、「つい、過激なことを口走ってしまうから(ディレクターにチェックしてもらうため)」という意味合いの発言を以前、番組内でしていた。構成作家を入れず、投稿の選別も、読むのも、コメントも全部自分でしている。

 ⇒ 山下達郎 OFFICIAL SITE

今回の発言は、うっかりホンネが……ではなくて、明確な意志をもってのものだと、ファンは受け取るべきだろう。

AI技術利用の範囲

現時点でのボクの考えでは、AI技術の発展のために、美空ひばりを再現できるかやってみましょうという実験を公開するところまでは、ギリギリOKかな、という気がする。それは当然、過去の公けになっている映像・音声を教材として、再現具合を比較するという形になるはずだ。

こうした再現と、本人が関知しない新しいことを本人に無断でやるということは、次元のちがう話で、1本タガがはずれている。ひとことで申し上げると、冒瀆(ぼうとく)だと言わざるをえない。

ここで述べたような再現だと、AIというよりCGのレベルだと言われるかもしれないが、AIの学習能力のすごさはもっと他に活かせってことだ。