『女くどき飯』が最終回だなんてイヤだ

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 コメディエンヌとして定評がありながら、なかなかこれという作品にめぐり合わなかった貫地谷しほりの魅力をたんのうできる。

 たった8回の放送で終了になってしまうなんてもったいない。本人があきるまで一生やってくれないか。寅さんに対抗して何十年もくどかれつづけるってのは、どうだろう。

 原作は『アラサーちゃん』がヒットした元AV女優・峰なゆかのぐるなび連載のコミックエッセイ。

 といっても、セクシーなドラマではなく、主人公を彼氏が5年もいないフリーライターに変え、キャラクターを貫地谷しほりにアテている。アドリブもあるのかしれないが、
「大殺界なんです」
 なんてセリフもあって、半ば本人である。ブツブツひとりごとを言うなど、らしさがいちばん出しやすい設定と言っていい。

 Web連載の企画として、メシを食いながら、読者に口説かれるというストーリー。

 冒頭で今回の応募者のデータを送ってくる女性編集者と料理をもってくる店の人以外、基本、貫地谷しほりと相手役の男しか出てこない。シーンも自宅以外は店内だけで、2回ぐらい妄想シーンがはさまる。どういうわけか、最近、現代ドラマに出るときのお約束みたいになっているコスプレ系だ。第7話の韓国イケメン(超新星・グァンス)がゲストのときは韓流ドラマ『冬のソナタ』のパロディをやるといった具合。

 ストーリーの性質上、出てきた料理に対するコメントが多くなるが、これも貫地谷しほりのパートはパロディ風で、相手役の男や店の人が口にする説明とは、ひと味ちがう。

 回を追うごとに、ひとり暮らしの部屋で、バランスボールに乗っているなど、ヘンなことをしている細部もおもしろい。第5話なんて、冒頭のひとことからおかしかった。

 いちばんのお楽しみは、食事中の心の声を使った笑い。

 ところどころ、方言がまじるのだが、バツグンなのは大阪弁で、「大阪弁だから、おもしろい」のではなく、ちゃんと笑えるセリフまわしになっている。『ちりとてちん』のときに身につけたんだと思うが、わざとちょっとヘタに言うことで、大阪弁が戯画化される(『ちりとてちん』のヒロインは、福井から大阪に出てきたという設定)。

 どの程度ヘタに言えば、ちゃんと笑いになるかという計算が正確なのだろう。

 イメージして欲しい。このドラマを撮影しているところを。心の声のセリフを言う部分の演技はなにも言ってないわけだ。相手の男と会話をしているだけ。あとから、心の声を画面にかぶせている。声優やナレーションの仕事が多いというキャリアがこんなところでも役に立つのだな。

「あかん。この子、やっぱり、あかん子や」(第2話)
 といった言葉のチョイスも見事なものである。これは脚本家(北川亜矢子)の手柄なのかもしれない。

 しかし、セリフにニュアンスをつけるのは役者の仕事だ。主役は相手役に対して受けの演技もしっかりしていないといけないが、事実上の2人芝居ではなおさらだろう。そこそこまとまったシナリオをふくらませて笑わせるのがコメディアン、コメディエンヌの力量だ。6月に発売されるDVDでは、特典映像がつくそうだから、どのようにふくらませたのかがわかるような内容にして欲しい。

 そして、シリーズ化されることを乞う。
 
 
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P.S.

 心の声を「あとから」かぶせる、というのは編集作業の話で、撮影中は先に声だけ収録した(それはそれでむずかしい)ものを現場で流して撮影した──ってことがDVDの特典映像を見れば、わかる。