2013年7月公開の映画『風立ちぬ』を最後に引退宣言をしたスタジオジブリの宮崎駿監督。厳密には、年令からいって長編はムリという意味で、クリエイティヴな活動をやめるわけではないと言っていた。
その後、準備していた戦国時代を舞台にしたマンガは頓挫したようだが、ここへきて、『幽霊塔』を発表した。
といっても、アニメ作品ではない。江戸川乱歩『幽霊塔』のカラー口絵である。
知っている人は知っていると思うが、『幽霊塔』こそは少年時代の宮崎駿が熱中した作品だ。これが『カリオストロの城』の時計塔のイメージの源泉となった。
そうしたエピソードを宮崎駿自身がマンガにし、自分が空想した『幽霊塔』の時計塔を描いている。さらに、自分が映画にするなら……と主人公の青年とヒロインの出会いのシーンを絵コンテにしている。このやり方で全部やりゃあいいのに。
これも知っている人は知っているが、乱歩の『幽霊塔』には、黒岩涙香の元ネタがあって、まとまりのあるおもしろい話だから、宮崎駿の絵コンテでだれかに演出させればいいのに。飛行シーンはないだろうけど。
オリジナルでないがゆえに、乱歩の持ち味がよく出ていて(通俗モノでは、ルパンを参考にしているらしいことも)、ひょっとしたら、乱歩作品でいちばん好きかもしれないってくらいにおもしろい。
そしてまた知っている人は知っているが、涙香の『幽霊塔』も得意の翻案モノだ。毎度おなじみ版権無視だが、彼に関しては、必要悪みたいなもので、負の側面が多い文明開化の恩恵のひとつと言ってもいい。
で、涙香版『幽霊塔』の元ネタは『灰色の女』というラヴロマンスで、長らく不明とされてきた。宮崎駿はそれに先行する『白衣の女』にふれて、ぜひ読んでみるようにとすすめている。
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